コラム

大阪と東京に生まれた地域政党の必然と限界

2017年06月27日(火)15時40分

こうした2つの観点を持って地方や国政を眺めてみると、既成の国政政党はすべてが「大きな政府論」なので、バラマキの対象は違っても基本的な姿勢はバラマキであることに気付きます。そうすると、既成の全国政党には魅力を感じないという見方があると思います。

そのような目で見てみると、国政政党、具体的には政権党である自民党の「東京都連や大阪府連」というのは、都市という地方における「バラマキ政党」という風に見えてしまうのでしょう。

仮にそうだとしたならば、その延長で徹底した減税要求が出てきても良いはずですが、不思議とこの減税要求というのは控え目なのです。給与天引きされる住民税に合算徴収される中で、都府税というのは金額的な税の痛みを感じにくいのでしょう。

さらにこれに加えて、都府の住民は高齢化などによる自治体の将来不安を理解しているという「物分りの良さ」があるために、財政を弱体化させる減税要求はしないのかもしれません。

では、こうした「大都市発の小さな政府論」は、本格的な政治潮流になりうるのでしょうか?

【参考記事】政治活動にほとんど参加しない日本の若者

現時点では、どうしても「歳出への疑問」というネガティブな発想を前面に出した政治運動で、このままでは発展性はないと思います。大阪維新にしても、行政のコストカットに続く、地域の産業構造転換については具体的な提案はできずにいます。また道州制を前面に出す中で、人口減で経済が厳しい衰退トレンドに入っている地方にも応用できる提案はありませんでした。

今回の「都民ファースト」にしても、現時点での公約にはコストカットに加えて、「国際金融都市」として成長するという政策が加えられているくらいです。

ここに大きな問題があります。「小さな政府論」というのは、非効率な行政やムダなハコモノなどへの批判ということでは一定の意味はあります。ですが、その問題点を指摘するだけでは足りません。

積極的に未来を切り開く施策、例えば東京の場合であれば、「さらなる一極集中を受け入れるのか?」「単身高齢者世帯の激増にどう対処するのか?」「英語を公用語にしたアジアのビジネスセンターにするのかしないのか?」といった議論から逃げる訳にはいかないからです。

日本の場合、国政政党のほとんどすべてが「大きな政府論」である現状で、大都市から「小さな政府論」が出てくるのには必然性があります。ですが、こうした動きを意味のあるものにするには、単に批判精神からのコストカット要求に留まらず、もう一歩踏み込んだ政策議論が不可欠です。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア政府系ファンド責任者、今週訪米へ 米特使と会

ビジネス

欧州株ETFへの資金流入、過去最高 不透明感強まる

ワールド

カナダ製造業PMI、3月は1年3カ月ぶり低水準 貿

ワールド

米、LNG輸出巡る規則撤廃 前政権の「認可後7年以
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story