コラム

ユナイテッド航空の乗客引きずり降ろし、残る3つの疑問

2017年04月13日(木)17時10分

2番目に、どうして「この男性が強制的に降ろされることになったのか?」という問題ですが、事件の詳細に関してはムニョスCEOが今月末を期限として真相解明を行うと述べています。その際に解明されるべきポイントは何かということです。

まず、どうして「この男性が指名されたのか?」ですが、現時点では2つ説があります。「任意で降機した場合に800ドルの航空券を贈呈」という条件が提示された際に男性が一度は「自分から手を上げた」が、その後「当日中には戻れない」ことが分かって翻意したのが原因という説がある一方で、「コンピュータが自動的に4人を選択した」という説もあります。

仮に後者であった場合、どんな基準で選択されたかという点が重要です。国際的な慣行では「最後にチェックインした順」というのが常識でしたが、オンラインチェックインが普及している現在では、空港に到着していなくてもチェックインは可能で、この基準は事実上意味が薄れています。また、チケットの価格の順や、上級会員であるかどうかで区別がされたのかもしれません。いずれにしても、事実関係を公開した上で、適正なルールについて改めて議論がされるべきと思います。

一部には、男性が「自分が中国人だから降ろされるのか?」と叫んだという情報、あるいは実際はその男性がベトナム系アメリカ人らしいということから、人種差別ではないかという声もあります。事実、中国やベトナムという、ユナイテッド航空が「力を入れている市場」で急速なイメージダウンが起きていますから、真相解明が急がれます。

【参考記事】ユナイテッド航空「炎上」、その後わかった5つのこと

相次ぐサービス改悪

さらに、非番のクルー4人を急遽搭乗させなくてはならなかった経緯についても解明が必要です。おそらく、ルイビルに着くはずのクルーが着かないので、翌朝便を運航するためにはバックアップのクルーを派遣しなくてはならない、その判断がギリギリの時点で発生したのでしょうが、その経緯も解明されるべきでしょう。

もしかしたら、その前週から続いていたデルタ航空の全国的な運航ダイヤ混乱の影響もあったのかもしれません。リパブリック航空というのは、ユナイテッドだけでなく、「デルタ・コネクション」というデルタ系のリージョナル・エアのサービスも行っているからです。

3番目の問題として、そもそも「どうして米国の国内線はギスギスしているのか?」ということですが、その背景には1980年代の航空規制緩和によって、業界の競争が激しくなった実態があります。ですが、本来は競争が激しくなれば、乗客へのサービスは向上するはずです。

ところが、現在の米航空業界は「機材の小型化、便数削減」によって高価格と高稼働率を狙ったり、キャビンでのサービスを極限まで切り詰めたり、あるいは無料航空券獲得につながるマイルの付与率を格安券の場合は思い切り下げるなどの「改悪」ばかりをやっています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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