コラム

トランプ「不法移民の国外追放」を支持する人々の感情論

2017年02月23日(木)17時00分

現在、大きな問題になっているのは「サンクチュアリ・シティ(聖域都市もしくは移民保護地域の意味)」を宣言している市や郡に対して、大統領が「敵視」政策を取り始めていることです。

この「サンクチュアリ・シティ」には、例えばワシントンやニューヨークなど東海岸の主要都市、そしてサンフランシスコやロサンゼルスなど西海岸の都市を含む、全米の大都市が多く属しています。

具体的には、市の治安維持活動を行っている市警察や、郡の場合は保安官事務所が「微罪の場合は、身分証明を厳格に追及しないし、指紋などの情報を連邦政府に送ることはしない」という措置を取り、微罪に問われた不法移民が連邦政府によって国外追放されることに「協力しない」市や郡のことを言います。

こうした地域では、民主党の勢力が強く、例え不法滞在であっても移民の人権には敏感になっていますが、各市警や保安官事務所は「イデオロギーを理由とした措置ではない」としています。具体的には例えば、もし警察にコンタクトしたら国外追放されると考えていると、不法移民が被害者となった事件の捜査協力を得られず地域の治安を守れない、といった問題が背景にあると言います。

もちろん本音としてはその両方だと思いますが、トランプ大統領はこうした「サンクチュアリ・シティ」に関しては連邦の補助金をカットするなどの「罰」を下して、プレッシャーをかける構えです。

【参考記事】トランプはゴルフしすぎ、すでに税金11億円以上浪費

一方で移民の送り出し側はどうかというと、例えばメキシコ政府は激怒しています。経済が低迷する中で、アメリカへの「出稼ぎ労働者からの送金」が無視できないという事情もあるようですが、それ以前の問題として同胞に屈辱が加えられるのは見過ごせないということなのでしょう。

では、ブッシュ政権からオバマ政権の時代には、どうして「合法化」が模索されたのでしょうか? そこにあったのは人道やイデオロギーという要素だけではありません。現在の不法移民は、「最低賃金以下」で労働してアメリカ経済を支え、なおかつ「所得税は払っている」存在として、アメリカの産業構造の中で重要な位置を占めているからです。

具体的には、農場、造園業、建設業などの現場労働、食品加工業などの工場労働、レストランなどサービス業での作業労働などで、不法移民の存在がアメリカ経済を支えていると言っても過言ではありません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

世界の石油市場、26年は大幅な供給過剰に IEA予

ワールド

米中間選挙、民主党員の方が投票に意欲的=ロイター/

ビジネス

ユーロ圏9月の鉱工業生産、予想下回る伸び 独伊は堅

ビジネス

ECB、地政学リスク過小評価に警鐘 銀行規制緩和に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編をディズニーが中止に、5000人超の「怒りの署名活動」に発展
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 8
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 9
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 10
    「ゴミみたいな感触...」タイタニック博物館で「ある…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story