コラム

トランプはなぜメディアを敵視し、叩き続けるのか?

2017年02月21日(火)15時45分

中でも物議を醸したのは「スウェーデンで何かが起きた」という言い方で、まるでスウェーデンでテロ事件が発生したかのように思わせぶりなコメントをした部分です。これについては、スウェーデンの外交当局が抗議するなどの騒ぎとなり、ホワイトハウスは「北欧でイスラム系移民の流入増加によって様々な問題が起きている」という「FOXニュースの報道について言及しただけ」だと、火消しに躍起になっていました。

このように本人の発言に「フェイク」がかなり入っているのにも関わらず、演説の中では「多くのメディアはフェイク」であり「国民の敵」だというメディア攻撃を相変わらず繰り返しています。

この演説スタイルですが、何が目的なのか、実はよく分からないのです。なにしろ2020年に再選を目指す選挙戦を始めるには全くもって早すぎます。また2018年の中間選挙を目指すにしても、こんないい加減な演説を、しかも巨額の公費を使ってやられては、共和党の議員たちからすればいい迷惑だと思います。事実、共和党の議員団からは、大統領のメディアとの確執について厳しい批判が出ています。

昨年11月まで続いた選挙戦の期間中は、多少事実に反することや政敵への徹底した攻撃が入ったとしても、基本的に敵味方の「戦いの勢い」という枠組みから理解することができます。ですが、実際に合衆国大統領に就任した現在もなお、事実かどうか怪しい話を含めて、アドリブで面白おかしくメディアを叩くような演説を行うのは、一体何のためにやっているのか、という疑問が湧いてきます。

【参考記事】トランプのアメリカで反イスラム団体が急増

一つは、選挙戦の時と同じように「敵」を叩いてコアの支持層を熱狂させれば、その支持がジワジワと拡大していく、そのような効果を狙っているという可能性です。選挙戦の際には憎い敵としてオバマ&ヒラリーという具体的な存在がありました。その「敵」が消えた現在、大統領もコアの支持層も熱狂を続けるためには新たな敵が必要で、それがメディアだというわけです。

例えば、入国禁止となって困っているイスラム圏からの旅行客や強制送還措置で引き裂かれる不法移民の母子といった、公約の実現した光景を見て、心の底から「良かった」とか「もっとやってくれ」という感情を抱くほど、トランプのコア支持者は歪んではいないと思います。そのような不健康で嗜虐的な感性は、さすがに大統領自身にも支持層にもないと思います。

そうではなくて、あくまで「敵」を作ってそれを叩く、しかもその敵は「強ければ強いほどいい」という中で、今は、大手メディアを敵に回しているということなのでしょう。

本来は、一刻も早く人事と組織を固め、連邦議会と相談しながら着実に政策を実行するという実績を積み上げることが、支持率アップ、そして中間選挙勝利へのシナリオであるはずです。ですが、「それが簡単にできない」現実の中では、劇場型の政治を続ける必要があり、そこには「敵」が必要で、現在はメディアとの確執を演ずるしかないということなのだと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請件数、1万件減の21.4万件 継

ワールド

EU・仏・独が米を非難、元欧州委員らへのビザ発給禁

ビジネス

中国人民銀、為替の安定と緩和的金融政策の維持を強調

ワールド

ウクライナ和平の米提案をプーチン氏に説明、近く立場
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 5
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 6
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 7
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 8
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 9
    【投資信託】オルカンだけでいいの? 2025年の人気ラ…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story