コラム

トランプ当選の可能性はもうゼロではない

2016年09月23日(金)17時00分

 ちなみに、9月11日の慰霊式典で体調を崩したという「ヒラリーの健康問題」は解決済みで、特に波紋は広がっていません。問題は他にあります。

 その理由は4点挙げられると思います。

 まずは景気です。今週、FRBのイエレン議長は「9月の利上げは見送り」という判断を表明しました。妥当な判断だと思いますし、市場も当然のこととして受け止めています。ですが、この判断は、「景気がそれほどの勢いではない」と示したことに他なりません。

 これは、アメリカ社会全体としては決して「今は良い時代ではない」という感覚に重なるわけです。そして、失業率は下がっているものの「自分は再就職したが希望年収にはまったく届かない」とか「今は職があるが、今度失業したらもう後がない」あるいは「自分の周囲に職のない若者が多い」といった「雇用に関するネガティブな生活実感」が濃厚だということもあります。

 そんな中で「こんなはずはない」とか「この世の中で成功している人間は妬ましい」あるいは「自分は特に失うものはないので、世の中を思い切りひっくり返して欲しい」という感情を持つ人たちが確実に増えていると言えるでしょう。

【参考記事】「健康問題」と「罵倒合戦」で脱線気味の大統領選

 2点目はテロと安全保障です。欧州のようなテロの横行する社会とは距離を置きたい、イラク戦争のような犠牲を伴う「介入」は二度とやりたくない、先週のニューヨーク、ニュージャージー州の爆弾テロのような単独犯も怖いので予備軍も含めて入国規制して欲しい......つまりトランプ的な「文明の隔離主義」「孤立・非介入・隔離」という考え方が不気味なまでに広がっています。

 シリア情勢にいたっては「複雑すぎて理解する気もない、従って興味はない、だが怖いから距離を置きたい」というアパシー(無気力・無関心)が広まっているように感じられます。こうなると、デマゴーグ的な煽り方をしてきたトランプだけでなく、「どうせ理解してもらえない」からと、国民に対して「複雑な中東情勢とアメリカの姿勢」を説明してこなかったオバマ=ヒラリーにも相当非があると言わざるを得ません。

 3点目はヒラリーの選挙戦です。本来やらなければならない、複雑なシリア情勢でも「国民に平易に真実を説明でき、その上で最適解を提案する」ことができていません。経済もそうです。ヒラリーの政策ハンドブックには「アメリカは先進国型経済を極め、知的労働で生きていく。その代わり、巨大な人口が知的労働に足りるだけの職業教育が受けられるように具体的な施策を整える」と書いてあるのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イラン外相、外交優先なら米との合意可能 公正な早期

ワールド

トランプ氏、一般教書演説で「強く繁栄する米国」強調

ビジネス

インフレ2%なら利下げ可能も、生産性向上は過信すべ

ワールド

経団連、米エリオットとの非公開会合を延期 「諸事情
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
2026年3月 3日号(2/25発売)

フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 2
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 3
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 4
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
  • 5
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 6
    「極めて危険」──ゼレンスキー、ロシアにおける北朝…
  • 7
    IMF、日本政府に消費減税を避けるよう要請...「財政…
  • 8
    武士はロマンで戦ったわけではない...命を懸けた「損…
  • 9
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 10
    「IKEAも動いた...」ネグレクトされた子猿パンチと「…
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 3
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 4
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
  • 5
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 6
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 7
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 8
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 9
    ロシアに蔓延する「戦争疲れ」がプーチンの立場を揺…
  • 10
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 5
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 6
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story