コラム

ハーバード入試でアジア系は本当に「差別」されているのか?

2015年07月09日(木)18時00分

 こうした点から見れば、「アジア系の合格者のSAT平均が他の人種よりも高得点」だというのは、「アジア系にマイナスのハンデが付けられている」というよりも、数多くある評価ポイントの中で「アジア系はSATの高得点という要素に頼った履歴書構成になりがち」という見方もできるわけです。

 もう一つは、70年代以降のアメリカ社会における「アファーマティブ・アクション」(少数者優遇措置)制度です。人種や性別などで、教育機関や職場の構成員に偏りがある場合は、少数者を優遇して、その偏りを是正しなくてはならないという制度です。

 この「アファーマティブ・アクション」の背景にあるのは「人口比」です。全国区の場合なら全国の人口比で、例えば地域密着の雇用主であれば、その地域の人口比に比例するレベルまでは、強制的に少数者を優遇して入れていかなくてはならないのです。

 ハーバードをはじめとするアメリカの名門大学では、アジア系は「全米の人口比を超える比率」になっている一方で、ヒスパニックと黒人はまだまだ「足りない」という傾向があり、優秀な学生は大学同士の争奪戦になっているぐらいです。この制度を前提とすると、アジア系が不利になるのは仕方がないということになります。

 ちなみに『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙などの一部メディアが、今回の「アジア系の集団提訴」を支持した背景には、民主党カルチャーの象徴である「アファーマティブ・アクション」への反発という、政治的な思惑が見え隠れするということは指摘できるでしょう。

 更に言えば、ハーバードをはじめとする名門校の場合は、卒業生や教職員の子供や孫を対象とした「レガシー枠」が全合格者の15%前後設定されています。差別といえばそれまでですが、大学の伝統維持を前提として、その継承者を意識的に入れていくというのは、キャンパスの活力維持には欠かせないとされています。このレガシー枠では、どうしても白人に比べてアジア系が不利になるという面はあると思います。

 ちなみに、同じ超名門校でも西海岸のカリフォルニア工科大学(カルテック)では、アジア系が40%を超えています。ですが、カルテックの場合は、1年生を全世界から240人前後しか取らない少数精鋭主義、数学は線形代数・多変数微積分の既習がほぼ前提、しかも「自身の研究テーマを既に決めている」学生を中心に合格させるという極めて特殊な学校です。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買

ワールド

米最高裁、「フードスタンプ」全額支給命令を一時差し

ワールド

アングル:国連気候会議30年、地球温暖化対策は道半

ワールド

ポートランド州兵派遣は違法、米連邦地裁が判断 政権
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 6
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 9
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 10
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story