コラム

年内解散という「風」に対立軸はあるのか?

2014年11月13日(木)13時30分

 では、具体的に何を争点として「軸」を形成していったらいいのでしょうか?

(1)まず、地方の問題があります。現在のところでは、地方の問題に関しては「強度のバラマキ」(生活)、「中度のバラマキ」(自民)、「バラマキの抑制」(民主)、「バラマキへの反対」(維新)という差があるように見えます。ですが、このままでは地理的な利害をそれぞれに代表するだけで、理念的なものは見えてきません。「地方が経済的に自立」しつつ「人口減少を緩和する」立場を、どこかで作っていかなければなりません。

(2)更には世代間の矛盾を調整しなければなりません。例えば消費税アップを先送りにした場合は、自動的に「社会保障の一体改革」の財源に問題が生じます。これに対して、給付を下げて負担を上げるという対策は高齢者の利害に反します。一方で、消費税以外の負担増ということになると現役世代の利害に反します。教育や子育てへの分配も受益者は限られた世代になります。

(3)何よりも構造改革を進めなくてはなりません。ですが、個人にしても所属企業や従事している産業が「国際市場での競争力がない」場合には、既得権の死守に走ることになります。一方で「競争力がある」側は「その競争力をいかせない」という規制への反発や、「ない」側を養うコスト負担の問題があるわけです。また国内の規制が改革できない場合は、競争力のある個人や企業はどんどん国外へ出て行くことになります。その結果として、国内のGDPは縮小し、人口も流入を制限する中で流出超過トレンドが続きます。そうした「海外移転」をどう抑制するか、あるいは海外に移転しても課税できる道を模索するのか、ある意味では構造改革と表裏一体の問題があります。

 こうしたテーマは、それぞれの有権者の属性と密接不可分ですが、うまく「自分のポジションに合った組み合わせ」がないと、政治的な無関心を呼びがちです。自民党が現在強いのは、こうした3つの軸を束ねて「やや短期的利害に基づく功利主義」をバラまいているからです。

 これに対しては、その自民党の軸に「対抗する組み合わせ」は現在のところはありません。ですが、少なくとも、年末に予想される総選挙ではそうした「軸」を意識しながら各党の言動をよく見ていくことが大切だと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

香港の大規模住宅火災、ほぼ鎮圧 依然多くの不明者

ビジネス

英財務相、増税巡る批判に反論 野党は福祉支出拡大を

ビジネス

中国の安踏体育と李寧、プーマ買収検討 合意困難か=

ビジネス

ユーロ圏10月銀行融資、企業向けは伸び横ばい 家計
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 8
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story