コラム

国境に押し寄せる、不法移民の子供たちの波

2014年07月10日(木)12時58分

 ここ数カ月、アメリカの南部国境は異常な状況に陥っています。不法移民の流入が止まらないのはもう何十年も前からですが、現状は前代未聞と言って良いでしょう。身分を証明する書類を持たない子供が、子供だけで毎日何百人も国境を越えてくるのです。年に換算すると5万人以上という異常なペースです。

 アメリカの南部国境というと、その向こう側はメキシコになりますが、この子供たちがメキシコ人だと判明すれば、問題は比較的簡単です。簡単な手続きで国境の向こうに強制送還することになるからです。メキシコ政府も、こうした措置に関しては了承しています。

 問題は、この子供たちがメキシコ人ではないということです。彼らはどこから来るのかというと、中米の主としてエルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラスの3カ国の出身のようです。この3カ国からは、メキシコのアメリカとの国境地帯まで、飛行機やバスの「ルート」があり、コンスタントに子供たちが送られてくるのです。

 どうして子供たちは母国を脱出してくるのでしょうか? それは、この3カ国の治安が極端に悪化しているからです。例えば、ホンジュラスの場合ですが、2012年の一年間で殺人の件数は7172件(在ホンジュラス日本大使館のHPによる)となっており、人口が747万人である同国の場合は、10万人当たりの殺人事件被害数は96人と、世界第1位の水準。更に都市圏ではこの数字は倍近くになるという悲惨な状況になっています。

 どうしてこの中米諸国の治安が悪化しているかというと、例えばホンジュラスの場合は政情が不安定で、さらにハリケーンの被災といった問題から復興が進まない中、メキシコなどから「麻薬マフィア」が流入してきているからだと言われています。この麻薬マフィアのために治安が悪化し、同じ麻薬マフィアたちが不安を抱えた親の弱みにつけこんで、「1人50万円から80万円で子供を安全にアメリカへ亡命させる」というビジネスを行っているのです。

 実際はオンボロの飛行機やバスで、子供たちをメキシコのアメリカ国境地帯に送るだけで、金のほとんどはピンハネされるようです。ですが、いずれにしても、このまま母国に留めておいて殺される危険よりはマシという考えから、多くの親が金を払って子供を「業者」に託すという構図があるわけです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏 、 ホルムズ海峡に多くの国が軍艦派遣と

ビジネス

イラン情勢注視続く、FRB金利見通しも焦点=今週の

ワールド

イスラエル、レバノンと数日内に協議へ ヒズボラと戦

ワールド

北朝鮮の金総書記、多連装ロケット砲の発射訓練視察=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 2
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目のやり場に困る」衣装...「これはオシャレなの?」
  • 3
    有人機の「盾」となる使い捨て無人機...空の戦いに革命をもたらす「新世代ドローン」とは?
  • 4
    「筋肉はモッツァレラと同じ」...なぜウォーミングア…
  • 5
    機内で「人生最悪」の経験をした女性客...後ろの客の…
  • 6
    イラン攻撃のさなか、トランプが行った「執務室の祈…
  • 7
    ファラオが眠る王家の谷に残されていた「インド系言…
  • 8
    「映画賞の世界は、はっきり言って地獄だ」――ショー…
  • 9
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 10
    ホルムズ封鎖で中国動く、イランと直接協議へ
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 5
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 6
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 8
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切り…
  • 9
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 10
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story