コラム

どうして今「ガザ空爆」なのか?

2012年11月19日(月)11時29分

 アメリカは明らかに狼狽しています。イスラエルが妙な動きをしているという兆候はありました。例えば、先週の11月11日前後には、イスラエル軍はシリアの政府軍とゴラン高原で砲火を交えています。

 この事件に関しては、長年にわたるアサド父子とイスラエルの確執が再燃したという恐怖感も多少はあるものの、イスラエルが「シリアの反政府勢力の中に反イスラエルの動きがある」として、反政府勢力のある部分を攻撃するというシナリオに比べれば、まだ国際社会としては「理解可能」だからです。

 何よりも、アサド政権がトルコとイスラエルの影響力排除を試みているという文脈から理解できるというだけでなく、「国際社会が何らかの支援を考えている反政府勢力」が「イスラエルの敵」になるという錯綜した関係は回避できるからです。

 ですが、11月14日に始まったガザへの大規模な空爆は、中東和平の枠組みを揺さぶるインパクトを持っておりアメリカを始めとする国際社会は、週明けの最重要課題として動かざるを得なくなりました。

 イスラエルはガザ地区を実効支配しているハマスの幹部(ジャバリ参謀長)を15日に殺害すると共に、大規模な空爆を加えており、ネタニヤフ首相はこの週末に至って「地上戦力の投入も考慮」という激しい発言を始めています。

 アメリカはこの間、大統領選があり、その直前にはハリケーン「サンディ」による被災があり、更に大統領選後は「財政の崖」問題に取り組むための大統領と議会指導者の交渉が始まったり、その一方では「ペトレアス・スキャンダル」があったりと、中東情勢に関心を向ける余裕がなかったのですが、完全に虚を突かれた形です。

 このガザ侵攻ですが、直接の原因としてはハマスによるガザ地区「発」のイスラエル領内へのロケット弾攻撃がエスカレートしていたという問題がある一方で、西岸地区を基盤とするパレスチナ国家のアッバス議長はパレスチナの国連加盟を模索しており、イスラエルとしては政治的に「反攻」したいというタイミング的な動機があったということも言えるでしょう。

 更にはガザ地区の背後にあるエジプトで公選により「ムスリム同胞団」系のモルシ政権が発足しているという問題があるわけです。また、その大きな背景としては、ここ数年続いている問題としてイスラエルを公然と敵視するイランによる核兵器の開発が進行しているという懸念があります。

 大枠で捉えるならば、イランの核開発は継続しており、シリアのアサド政権はまだまだ安泰、エジプトでは新政権が反イスラエル的色彩を濃厚にしているという「全体像」を考えると、イスラエルの側からは「自分たちに対する包囲網」が切迫しているという認識になるのだと思われます。

 イスラエルはこうした認識を持った場合は、その歴史の中で「先制的な攻勢」をかけることで知られています。国家存亡の危機感から、動物的な防御本能が激しい攻勢という行動として現れてくるのです。結果的に、その矛先はロケット弾攻撃の「火元」であり、背後にエジプト新政権を抱えるガザに向かったと考えられます。

 更にこれにはイスラエルの国内事情が絡んでいます。イスラエル国会(クネセト)は10月に既に解散されており、2013年の1月22日に総選挙が行われるのです。保守派のリクード系が優勢と伝えられてはいるものの、こうした「危機」に対しては「行動」しないと選挙では負けてしまうという判断もあったと思われます。

 国際社会は戦闘の大規模化を恐れています。フランスのオランド大統領は、以前からイスラエルのイラン攻撃を「認めない」という発言をしていますが、今回のガザ攻撃についてもネタニヤフ首相に即時停戦を求め、かえって反発を招いています。

 オバマ大統領は、間の悪いことにカンボジアやミャンマーなど南アジア歴訪に出ていますが、今のところは「イスラエル支持」というアメリカ的には無難な声明を発表しているだけです。更に、この欄で何度もお話したように、アメリカの軍事、外交関係の責任者については、現在「オバマ2期目」へ向けて人事が流動的なわけです。

 こうしたオバマ政権の対応状況について、共和党の保守派は「対応が遅い」とか「今言われているスーザン・ライス国連大使では次期国務長官には不適任」などと、色々な批判を出してきています。中には、共和党内からの声として「中東和平はオバマには無理だから、ビル・クリントンが出てこい」などという意見も出ています。

 もしかしたら、今回、ヒラリー・クリントンが国務長官を辞任するのは、自身の2016年の大統領選出馬準備ということと同時に、イスラエルに冷淡であったオバマとは「別の道」を模索するためなのかもしれません。

 以上、現状とその周囲の状況を整理しただけですが、少なくともこの問題、中東だけでなく、アメリカやヨーロッパの政治も巻き込んだ複雑な文脈の中で起きているというのは間違いないと思います。

<お知らせ>
ブログ筆者の冷泉彰彦氏がオバマ政権2期目の課題を展望する『チェンジはどこへ消えたか〜オーラをなくしたオバマの試練』(ニューズウィーク日本版ぺーパーバックス)が、今週金曜(23日)に発売されます。詳しくは阪急コミュニケーションズ書籍編集部のFacebookページをご覧ください。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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