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冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
「スーパーな決裂」が示した二大政党制の限界とは?
本来であれば今日、11月23日にはアメリカの議会では重大な発表が行われるはずでした。7月から8月にかけて行われた「債務上限問題」について、一つの決着がつくはずだったのです。この夏の時点を振り返ってみると、毎年の財政赤字をどうするかが問題となり、「米国債のデフォルトも辞さず」などという、今から考えるとかなり乱暴な議論がありました。
今同じようなことをやれば、ヨーロッパではユーロ危機が東欧に飛び火する中、それこそ世界恐慌の引き金になりかねません。つまりは7月の時点では、まだ世界には余裕があったのです。それはさておき、債務上限問題は、オバマ大統領の求めた「長期的な財政再建策」については、何も決めることはできませんでした。それに対する格付け機関の回答が「米国債格下げ」であり、市場はこれを受けて世界的な株安という形で、米国政界へプレッシャーをかけたのでした。
そこで一つの妥協が成立したのです。8月の時点で決まった妥協というのは「年末までの先送り」ということでした。その期限が今日、11月23日でした。その方法としては、上下両院の与野党12人による「スーパー・コミティー(委員会)」というのが編成されました。そこで、最低でもUSで1・5兆ドル(約115兆円)の削減を10年間で行う提言をすることになっていたのです。
この11月23日の時点で、委員会として提言がまとまらない場合は「トリガー・メカニズム条項」というのが自動的に有効となり、10年間で1・2兆ドル(約93兆円)の歳出カットが強制力を持つ法律として自動的に発効するのです。このカットには軍事費などの削減、内政面では教育予算の削減などが含まれており、否が応でもアメリカの長期戦略に影響が出るようになっています。
ですが、今日、23日を待たずして21日の月曜日夕刻の時点で、「スーパー・コミッティー」は1枚の紙切れを出しました。「党派間の溝は埋まらず、唯一合意に達したのは提言は成立しないということだった」という絶望的な、何とも無責任なステートメントでした。結局、公式の記者会見はないままであり、委員会としては「スーパー・フェイリアー(決裂、失敗)」であるという評価がメディアによって一斉に掲げられたのです。
では、これからどうなるのかというと、オバマ大統領はここへ来て「トリガー・メカニズム」による軍事費と教育などの自動カット法案は、「拒否権発動」で葬るという可能性を示唆しています。そうなると何が問題かというと、その時点で「アメリカは自力で財政再建はできない」という見方が広がって、米国債の再度の格下げが起きる危険が出てくると言われています。これに対しては、「トリガー条項」では言及していない現実的に可能な「小口の」歳出カットを積み上げて、何とか財政再建策としての体裁を繕うという話になるようですが、要するに再度の「先送り」ということになったわけです。
ただ、市場の反応としては「そもそもムリだったスーパー委員会」が破綻したことで、大統領主導の現実的な歳出カットに向かうという形が見えてきたのは、他の国の財政再建の取り組みよりは「マシ」ということで、米国債は買われたりもしているのです。
どうして「スーパー委員会」は失敗したのでしょう。それは、財政再建に関して、民主党の委員たちは「医療と年金を含む歳出カットは絶対反対」という姿勢、これに対して共和党の委員は「いかなる増税にも絶対反対」という、つまりは両党が原理主義的なイデオロギー上の立場を、全く崩さなかったから、その一点に尽きます。一部のメディアでは「もうこうなったら議会全体への不信任を突きつけるべき」などという声が出ていますが、確かに今日現在の議会ではそう言われても仕方がない面があります。
日本の政界では、例えば沖縄やTPPなどの問題で、民主党と自民党はハッキリしたイデオロギー上の対立軸は持っていないわけです。そのために、政治が小選挙区中心の力比べになる中で、国全体の民意を意思決定へとまとめるのが難しくなっています。ですが、アメリカのように、二大政党制が政策から世界観から真っ二つに割れているというのも、同じように政治の機能不全を起こしやすい、今回のエピソードはそうした問題を語っているように思います。
では、このまま膠着状態が続くのでしょうか? 一つの可能性としては、オバマ大統領がより中道にシフトすること、共和党が例えばロムニー候補のように「ティーパーティー的な原理主義」ではない候補でまとまってゆくこと、などの潮流の中から事態が好転するというストーリーは可能だと思います。その意味で、今週がアメリカ政治の機能不全の最悪期で、連休明けには少しずつ改善の気配が出てくることを期待したいと思います。
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