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冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
政治停滞、日米に共通点はあるのか?
アメリカにおける与野党の「債務上限」をめぐるバトルは、結論の出ないまま、史上初の米国債のデフォルトというスキャンダラスな現象を回避できない可能性が出てきました。
一方で、日本の政治状況も、「何も決められない」停滞状態が続いています。ニ次補正は通りましたが、公債特別法案などはメドが立たない中で、東北の復興は遅れるどころか、前提となる国土再建のガイドラインがないまま、そして財源のメドがつかないまま時間を空費しています。
表面的に見ると、アメリカの場合は「小さな政府論」の共和党と、「大きな政府論」の民主党に明確なイデオロギーの対立軸がありますし、直近では2010年11月に中間選挙で民意も出ています。その対立軸が論争の軸となる中で、中道実務派のオバマが必死で真ん中に入って調整をしているわけです。
これを日本と比較してみると、菅政権と反菅勢力や野党の綱引きには、一貫したイデオロギーは感じられませんし(イデオロギー的観点が強すぎるエネルギー政策を除く)、選挙に勝った際の公約を政権中枢が否定している中で、2009年の総選挙の民意が現時点での意思決定に与えるオーソライズ能力は限定されているように見えます。
そうした表面だけを見ていると、アメリカでは政治が機能し、日本では停滞しており、制度的にも政治風土としても日本には相当な問題があるように見えます。
ですが、その深層に流れるものを注意深く観察すると、そこには意外な共通点があるように思うのです。
共通点は3つ指摘できます。
1つは人口動態です。日本での財源論議においては、例えば所得税法人税の増税論議の背景には「年金受給者」の世代的な利害があるわけです。消費税率アップになると、年金受給世代も含めた幅広い対象に負担を強いることになるからです。
一方のアメリカでも、財政再建論議の中心は「年金」と「高齢者医療保険」をカットするかどうかという問題でした。現時点では、この点でもオバマは削減を呑む方向になっていますが、有権者の平均年齢の高い選挙区を抱える議員は、党派を問わず難色を示しています。
そうした人口動態に基づく「世代間の利害対立」という面倒な問題を抱えている、ということでは、日米の財政論議は驚くほど似ています。
第2の問題は、将来の成長に自信がないというセンチメントです。日本もアメリカも、中付加価値産業の生産拠点は中国をはじめとする海外に移転させてしまう中、国内では深刻な雇用問題を抱えています。そんな中、かつて金融、新薬、IT、IT家電などの「ニューエコノミー」で好況を実現したような「新たな成長」をもたらす新産業が見つからないという不安があるのです。
アメリカの場合は、分厚い若年層とグローバリズムに最適化した高等教育など、人材という資産がある強みがあります。一方で、日本の場合はまだまだ「参入していない最先端分野」があり、その分だけ「伸びしろ」があるとも言えます。ですが、両国共にこれ以上の成長を続けるために必要な「何か」が見つからない中で、将来への漠然とした不安があるわけです。
とりわけ、思い切ってカネを調達する度胸がないという背景にはこの問題があるように思います。
もう1つは、外部環境への不安感です。欧州の通貨危機は出口が見えず、中国が安定成長から成熟社会へとソフトランディングできるかにも、不安があるわけです。また、日米間では、日本は北米の景気回復を不安感を持って見ていますし、アメリカは日本経済における震災のダメージを自国経済の足を引っ張る要素として見ています。そうした外への不安感が、漠然とした内向き感情を増幅させ、リスクを取った決定を難しくしています。
そう考えると、日米のそれぞれの政府で起きている「決定できない症候群」には、構造的な要因が共通していると見ることができます。アメリカが、とりあえず現在の危機をどう乗り越えてゆくのか、そうした観点からも注目したいと思うのです。
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