コラム

政治停滞、日米に共通点はあるのか?

2011年07月27日(水)11時37分

 アメリカにおける与野党の「債務上限」をめぐるバトルは、結論の出ないまま、史上初の米国債のデフォルトというスキャンダラスな現象を回避できない可能性が出てきました。

 一方で、日本の政治状況も、「何も決められない」停滞状態が続いています。ニ次補正は通りましたが、公債特別法案などはメドが立たない中で、東北の復興は遅れるどころか、前提となる国土再建のガイドラインがないまま、そして財源のメドがつかないまま時間を空費しています。

 表面的に見ると、アメリカの場合は「小さな政府論」の共和党と、「大きな政府論」の民主党に明確なイデオロギーの対立軸がありますし、直近では2010年11月に中間選挙で民意も出ています。その対立軸が論争の軸となる中で、中道実務派のオバマが必死で真ん中に入って調整をしているわけです。

 これを日本と比較してみると、菅政権と反菅勢力や野党の綱引きには、一貫したイデオロギーは感じられませんし(イデオロギー的観点が強すぎるエネルギー政策を除く)、選挙に勝った際の公約を政権中枢が否定している中で、2009年の総選挙の民意が現時点での意思決定に与えるオーソライズ能力は限定されているように見えます。

 そうした表面だけを見ていると、アメリカでは政治が機能し、日本では停滞しており、制度的にも政治風土としても日本には相当な問題があるように見えます。

 ですが、その深層に流れるものを注意深く観察すると、そこには意外な共通点があるように思うのです。

 共通点は3つ指摘できます。

 1つは人口動態です。日本での財源論議においては、例えば所得税法人税の増税論議の背景には「年金受給者」の世代的な利害があるわけです。消費税率アップになると、年金受給世代も含めた幅広い対象に負担を強いることになるからです。

 一方のアメリカでも、財政再建論議の中心は「年金」と「高齢者医療保険」をカットするかどうかという問題でした。現時点では、この点でもオバマは削減を呑む方向になっていますが、有権者の平均年齢の高い選挙区を抱える議員は、党派を問わず難色を示しています。

 そうした人口動態に基づく「世代間の利害対立」という面倒な問題を抱えている、ということでは、日米の財政論議は驚くほど似ています。

 第2の問題は、将来の成長に自信がないというセンチメントです。日本もアメリカも、中付加価値産業の生産拠点は中国をはじめとする海外に移転させてしまう中、国内では深刻な雇用問題を抱えています。そんな中、かつて金融、新薬、IT、IT家電などの「ニューエコノミー」で好況を実現したような「新たな成長」をもたらす新産業が見つからないという不安があるのです。

 アメリカの場合は、分厚い若年層とグローバリズムに最適化した高等教育など、人材という資産がある強みがあります。一方で、日本の場合はまだまだ「参入していない最先端分野」があり、その分だけ「伸びしろ」があるとも言えます。ですが、両国共にこれ以上の成長を続けるために必要な「何か」が見つからない中で、将来への漠然とした不安があるわけです。

 とりわけ、思い切ってカネを調達する度胸がないという背景にはこの問題があるように思います。

 もう1つは、外部環境への不安感です。欧州の通貨危機は出口が見えず、中国が安定成長から成熟社会へとソフトランディングできるかにも、不安があるわけです。また、日米間では、日本は北米の景気回復を不安感を持って見ていますし、アメリカは日本経済における震災のダメージを自国経済の足を引っ張る要素として見ています。そうした外への不安感が、漠然とした内向き感情を増幅させ、リスクを取った決定を難しくしています。

 そう考えると、日米のそれぞれの政府で起きている「決定できない症候群」には、構造的な要因が共通していると見ることができます。アメリカが、とりあえず現在の危機をどう乗り越えてゆくのか、そうした観点からも注目したいと思うのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長人選を来週発表

ワールド

プーチン氏、キーウ攻撃1週間停止要請に同意 寒波で

ワールド

EU、イラン革命防衛隊をテロ組織に指定 デモ弾圧で

ビジネス

米キャタピラー、25年10―12月期は18%増収 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大胆な犯行の一部始終を捉えた「衝撃映像」が話題に
  • 3
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 4
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 5
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 6
    パキスタン戦闘機「JF17」に輸出交渉が相次ぐ? 200…
  • 7
    配達ライダーを飲み込んだ深さ20メートルの穴 日本…
  • 8
    日本経済を中国市場から切り離すべきなのか
  • 9
    致死率高い「ニパウイルス」、インドで2人感染...東…
  • 10
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 5
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 6
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 7
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 8
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story