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冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ずいぶんと忍耐強くなった「オバマのアメリカ」
今年のアメリカは春先からずっと異常気象が続いています。5月には全米で竜巻が猛威をふるいました。アラバマやミズーリでの惨状は、規模はともかく個々の被災地では日本の三陸と同様の無残な光景を現出させています。竜巻が収まったと思ったら、まだまだ被害が続いているのが洪水です。特に、中西部の多くの州を流れる大河ミズーリ川は、昨冬のワイオミングとモンタナでの記録的豪雪の雪解け水と長期にわたる降雨のせいで、全体的に増水しています。
モンタナ州からダコタ、ネブラスカという上流では、増水したとはいえ流れが急なことから何とか洪水は避けられる箇所も多いのですが、仮にこうした上流の州でどんどん増水したままで放置すると、下流の大平原で破滅的な規模の洪水になる危険が出てきました。そこで、政府の判断で、陸軍工兵部隊などが動員され、下流の大災害を防止するために、上流の一部の堤防を決壊させて計画的に洪水を起こし、部分的に増水分を上流で「処理」するということになったのです。
この「計画的洪水」というのが、何とも残酷なもので、水没予定地域では住民が整然と家財をまとめ、家に別れを告げて避難するという光景が繰り返されています。ただ、基本的に政府や軍に対しての信頼があるのか、社会的な混乱はそれほど起きていません。そんなわけで「中西部の北のほう」は「ずぶ濡れ」状態なのですが、逆に南の方は異常高温のために「カラカラ」であり、深刻な山火事が起きています。
実は、北部の洪水では2カ所の原発に増水した水が迫ったり、南部の山火事ではアメリカの最先端の核関連技術の研究をしている「ロスアラモス国立研究所」に火が迫ったりしています。どちらも、天災の脅威が原子力施設に迫っているということで、連日ニュースになっていますが、政府の対応、各発電所や研究所の対応で、今のところは事故には至っていません。この点に関しても、報道は多いのですが、世論は平静です。
一方で、アメリカの経済の方は、延々「超スローな景気回復」が続いているわけで、悪くはなっていないのですが、一向に「本格回復」の兆しは見えません。毎週、毎月の雇用統計は同じように「曇り」であり、住宅価格は下げ止まったと言われつつ、州にもよりますが底値を這っているわけです。そこへ、ギリシャの危機とか、中国のインフレなどの話が来ると怖くなって株が下がる、一息つけば上がる、という雰囲気も、これまたずっと同じような感じで続いているのです。
では、アメリカ人はそうした「スローな景気」に我慢できず、もうオバマ政権を見放そうとしているのでしょうか? 必ずしもそうではないようです。政治の世界では、アフガン撤兵問題などは、もう過去形になり、今は「財政赤字削減」が大きなテーマになっています。ここでは、共和党とオバマの民主党が激しく対立しているのですが、ここでもお互いに妙に忍耐強い感覚があります。
こうしたアメリカの雰囲気は何を物語っているのでしょう? 20世紀までの、いやリーマン・ショック以前のアメリカが持っていた、やたらに楽観的で派手でスピーディな、あるいは何でも拙速に行動に移す気風は確かに消えています。では、アメリカは悲観的になり、自信を失っているのかというと決してそうとも言えません。
多くのアメリカ人は「すぐにではないか、やがて経済も雇用も良くなる」ことを信じていますし、自然災害への政府の対処方針についても、人々は信頼を寄せているのです。そうした意味で、今はひたすら忍耐の時期であり、事を荒立てる乱世ではない、そんな感じです。オバマという大統領も、その政敵であるベイナー下院院内総務も、そうした耐える時代に似合うキャラなのかもしれません。こうした時代が続くようであれば、ペイリンのような「ワイルドカード」が登場する可能性は低いと思います。
では、どうして「オバマ時代」には人々が忍耐強くなったのでしょうか? 1つには、結果はともかくプロセスに関しては「仕事のできる実務的な政権」という信頼があるということがあります。同時にオバマを支持する若い世代が、複雑な時代と国際的な環境の中で、ある種「物分りの良さ」と「お行儀の良さ」を持っている、その上で1歳当たり300万人という巨大な世代の「層」を形成している自分たちの出番を待っているということが大きいように思います。
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