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冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
原油流出事故を受けて、行動するハリウッドスター達
メキシコ湾におけるBP社の深海油田からの原油流出事故は、依然として猛烈な圧力での漏出が止まりません。そんな中、21日のNBCでは、北部から南部の被災地へ「弁護士が大挙して南下」しているという報道をしていました。少しでも被害を受けた人間や企業に対して、北部の「やり手の弁護士」が「弁護料は成功報酬で」という条件で、どんどん訴訟を提起して回っているのだそうで、いかにも訴訟社会アメリカならではの光景です。
勿論、そんな行動だけではなく、今回の事故にショックを受けて多くの人がルイジアナやフロリダにやってきて、ボランティア活動など様々なかたちで被災地への支援を開始しています。その中には、ハリウッドの超有名人たちも混じっており、いろいろな意味で話題を提供しているのです。
その筆頭は何といってもケビン・コスナーでしょう。コスナーは、自身が監督・主演した代表作『ダンス・ウィズ・ウルブス』でアメリカ原住民(インディアン)の立場に立った姿勢でも明らかなように、ハリウッドの穏健リベラルの代表格のような存在です。また、この作品がいみじくも示しているように「行動派」的なキャラクターをもった人物でもあります。同時にコスナーは、同じく監督・主演した『ウォーターワールド』でエラ呼吸の可能な「半魚人」を演じてみせたように、海洋の自然に対する関心も強いようです。
そのコスナーは、1989年のアラスカ沖原油流出事故を契機にこの問題に関心を持ち始めたそうです。そして、人気の絶頂であった1995年に2400万ドル(21億円強)の資金をつぎ込んで、開発中の「原油を海水から分離するシステム」の権利を購入したのです。このシステムは、容器を超高速で回転させることにより、遠心力で汚染した海水から原油成分を分離するというもので、その名も「オーシャン・セラピー・ソリューション」というものです。当時のクリントン政権下では、政府のカネでは開発を進めるのが難しいというので、コスナーは「民間で引き受けよう」といかにも彼らしい「オトコ気」から大枚をはたいたというわけです。
その後の研究開発なども併せると、コスナーは4000万ドル(36億円)は「突っ込んだ」のだそうですが、今回の大規模汚染でその真価が問われる局面がやってきたというわけです。コスナーは早速BP社に「オーシャン・セラピー・ソリューション」を試用するように持ちかけました。5月には機材を6台導入してテストをしたところ、効果があったということで、6月に入って計32基が稼働を始めているのだそうです。コスナーは「儲けることなんか考えていないし、4000万ドル使ったことも後悔していない。でも、役に立てば嬉しい」と言っていますが、とにかく野球にカーレース、カントリーミュージック、民主党の応援に環境問題と、彼らしいキャラを生かして人生の幅を広げてきたコスナーとしては面目躍如というところです。
一方、事故直後に猛烈に売り込みをしてきたのは、『アバター』『タイタニック』『ターミネーター』の監督である、ジェームズ・キャメロンです。コスナー同様に、思想的なメッセージ(『アバター』ではやや平板になっていましたが)の発信や、様々な社会活動の好きなキャメロンです。そのキャメロンの発明というのは、『タイタニック』の冒頭でビル・パクストンが乗って出てくる深海調査艇から、リモートコントロールで沈んだタイタニックの船内に小さな無人潜航艇が入っていくシーンがありますが、あの無人潜航艇には、彼独自のノウハウが採用されているのだそうです。
キャメロンは、このリモートコントロールの無人潜航艇を「原油漏れを起している海底の破損部分」の修理に使えるのではということで、BPとオバマ政権に売り込んだのですが、コスナーとは違い、こちらは却下されてしまいました。キャメロンは自信満々だったようで、却下されると悪態をついていましたが、原油が噴出している箇所の物凄い圧力を考えると、そこを修復するためのフタや重しの類はかなりの質量となるわけで、『タイタニック』に出てきたようなリモートコントロールの小型潜航艇ではどうしようもないのだと思います。映画『アバター』でも重力の問題などでロジック性の弱い設定(島が浮き上がるのは「飛行石」という単純な説明だけで、惑星系の潮汐力は無視)が気になりましたが、この人はサイエンスというより、ファンタジーの人なのでしょう。
ところで、ハリウッドの大物で「環境派」といえば、ロバート・レッドフォードです。彼は、中西部の大自然を愛するある種のフロンティア精神と言いますか、古き良きアメリカのリベラリズムを体現した人物で、サンダンス映画祭の主宰や、同じく「サンダンス」と名付けたシンプルなファッション提案など、演出や演技を越えて様々な活動を続けてきた人です。そのレッドフォードも、今回のBPの事故と原油流出には憤っているらしく、21日のCNNではアンダーソン・クーパーのロング・インタビューに応じていました。
環境の問題にも長年関わっていたレッドフォードらしく、非常にエネルギッシュな喋り方で、全く「枯れた」ところがなかった、それは良かったのですが、ただ主張としては「今回の事故はチェイニーのエネルギー政策に責任がある」という一点張りで、10分を越えるインタビューの過半をディック・チェイニー前副大統領への批判にあてていたのは、少々失望させられました。折角の「RR(ロバート・レッドフォード)」という看板を背負っているのですから、もう少しユニークな論評を期待したかったと思います。
それはともかく、こうしたハリウッド芸能人の「活躍」を見ていますと、ノンポリに徹し、年功序列の権威などに縛られている日本の芸能人の「キャラの薄さ」が気になるのも事実です。ですが、これは芸能人一人ひとりの資質の問題というよりも、ビジネスの枠組みの問題という部分が大きいのだと思います。今日ご紹介した、コスナー、キャメロン、レッドフォードという人たちは、1作ごとに10憶単位のカネを動かす存在感(キャメロン監督はもう一桁多いですが)を持っていますが、それは彼等が個人で仕事をしているのではなく、それぞれが個人名を「ブランド」にした組織で仕事をしているからです。
コスナーの『オーシャン・セラピー・ソリューション』にしても、キャメロンの潜航艇、レッドフォードの映画祭といったものは、全て彼等の個人の行動ではなく、会社組織として多くの人材を集めて行っているビジネスなのです。日本では、芸能プロダクションという形で、ビジネスの主体は黒子的な存在になっていますが、アメリカの場合は、有名人の個人名とアイデンティティーを付加した「キャラ」を前面に出してビジネスを行っている、それだけの違いです。ただ、そうしたビジネスと、芸能人の「キャラ」そして社会貢献のスタイルに「一貫性」を持たせることができれば、その行動も、また出演作も多くの人間に支持されるという効果はあるようです。その点は、文化の違う日本でも参考になるかもしれませんし、芸能を越えたビジネス一般にも通じる考え方のようにも思われます。
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