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冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
鳩山辞任が象徴する二大政党制の機能不全
首相がコロコロ変わるというのは、自民党の病気だと思われていたのが、民主党も似たような気配があるようです。何が問題なのでしょう? 現在日本で起きているのは、政策の選択ができないことを、宰相個人の資質を攻撃することで当面の「はけ口」とする、そうしたエネルギーのムダ打ちが繰り返されることで「何も決まらない」ままズルズル時間だけが経過する、そこに問題があるのです。
今回の問題は「辺野古で決められない」ということです。全てはこの問題で、その「決められない」ことの犯人捜しのエネルギーが「鳩山降ろし」としてうごめいたということでしょう。参院民主党の改選議員が動揺しているからだけではありません。そうは言っても、あえて申し上げるならば、辺野古では国は潰れません。ですが、これが財政赤字であれば、そして予測できる将来に国債の入札が停滞するようになり、金利が上昇し円が暴落する中でも、まだ「何も決められない」ままズルズル行くようだと、本当に国が滅んでしまう、そんな危機感も感じるのです。
何が問題なのでしょう? 問題は二大政党制が機能不全になっている、私はそう見ています。というのは、実現性のある政策の選択肢は非常に狭まっているにもかかわらず、世論の歓迎しない判断をどうやって行うかという問題を現代の日本は抱えているからです。例えば、辺野古移転や、消費税アップ、法人税減税などは、どれも世論調査をすれば、賛成が反対を上回る可能性は少ないでしょう。安定した政権を作って、その信頼度を確保しながら世論を説得するしかないと思います。
ですが、こうした問題を一度でも政権の帰趨に結びつけてしまうと、問題の解決は非常に難しくなります。なぜかというと、政権は「新鮮味を求める世論」に推されて就任し、「問題が出ればその責任を取らされて」辞めさせられるということの繰り返しになる中で「痛みを伴う判断」は難しくなるからです。
小選挙区制と二大政党制が導入される過程では、政治の意志決定が中選挙区制に裏付けられた自民党の派閥抗争の密室で決められるよりは、はるかに透明性のある政治が可能になる、そんな期待感がありました。その透明性は確かに実現しましたが、同時に「誰も責任を取って痛みを伴う政策を実行できない」事態に至るということは想定していなかったのです。
官僚組織と結びついた与党と、実行不可能な批判役に徹した野党のバランスで物事が決まるよりも、政権担当能力のある二大政党が相互に政治を担当するならば、政治の腐敗は防止できる、そう思われていました。確かに公営選挙という動きも含めて、腐敗は減ったように思うのですが、政権担当能力はあるが、痛みを伴う改革を進めるほどの権限は与えられていない政権が、行き詰まるたびに交代して、いたずらに時間を浪費するということは想定されていませんでした。
その一方で、憲法上は、議院内閣制にある不信任決議や問責決議という制度が「世論から乖離した政権は解散で民意を問えば正常化する」という前提に相変わらず立っています。一見すると正常な民主主義のように見えますが、世論と乖離したらクビにすればいい、という前提で、痛みを伴う改革を可能にするような権限の付託は不可能になっています。政権が支持を失って漂流すると、憲法の規定がいとも簡単に、倒閣へと政治エネルギーをまとめてしまうのです。
私は長いこと、妊娠中絶や銃規制などで「世界観の激突」を演じているアメリカの二大政党制を、不毛なものだと感じていました。これに比べれば、価値観の幅の少ない日本の政界の方が安定しているとも思っていました。ですが、こうした「決定能力不全」を起こしてしまうようですと、考えを改めなければとも思うのです。
やはり二大政党制というのは、異なる価値観を求心力として二つの固定的な結集の核があり、その核となる価値観から同じ問題に対する異なった理解と、異なった対策を民意に提示できなければダメだと思うのです。でなければ、その都度その都度の「政権の巧拙」だけを問題にして「とっかえひっかえ」する間に時間を空費してしまうことは避けられないように思います。
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