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冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
日米政局、混迷の状況には相違も
発足1年を過ぎたオバマ政権、半年を迎えようとしている鳩山政権、日米の新政権はそれぞれに運営に行き詰まりを見せています。その両者は今年の半ば以降にそれぞれ国政選挙の洗礼を受けるという状況もソックリです。ですが、詳しく見てゆくと日米の政局の構造には相当な違いがあります。
まず、鳩山政権の場合は、中道左派的な味付けの理想主義的な政策を掲げたものの、税源や実行プロセスの非現実性などから実行は遅々として進んでいません。ある意味では、素人の集団が巨大な民意の期待に応えられずに立ち往生しているという趣です。一方のオバマ政権も、例えば医療保険改革のように中道左派的味付けの理想主義的な政策を掲げて当選しながら、実行ができずにいます。ですが、その原因は鳩山政権の停滞とは違う理由があるのです。オバマの医療保険改革について言えば、財源はあります。少なくとも、危険水域まで国債発行を増やさなくても対応できるという点で、キャッシュフローについては心配はないのです。
問題は、保守派を中心とした強力な反対に遭って立ち往生しているということで、この点が鳩山政権の例えば「子ども手当」とは違います。「子ども手当」など日本の新しい政策については、反対もありますが「悪い考えではないが、財源が問題だ」というのが反対論の中心で、それに「納税者基準だと合法滞在の外国人と、その国外の被扶養者の一部」まで入ってしまうなどテクニカルな反対論が最近出てきただけです。
ところが医療保険改革に関するアメリカの反対論はそんな甘いものではありません。「家族の健康を守るのは自己責任」「怠惰な貧困層救済のために任意の寄付ならやるが、国家権力が徴税権を振りかざして来るのには断固抵抗する」といった、ほとんど「国のかたち」や「人生観」の次元で相入れない勢力が伸張しているのです。オバマ大統領は、これに対しては粘りの一手です。議会案の最も現実的なものをベースに、いかに悪用を防止するか、財源を明確化するかなど必死の努力を続けていますが、現時点ではまだ行方は不透明です。
では、今年の国政選挙の行方ですが、まず鳩山民主党の方は、余程のことがない限り大敗という可能性は低いようです。今回の「密約」にしても、経済の不振についても、世論としては「民主がダメなら自民」に戻そうという民意は出てきていません。現在の閉塞感を乗り越えるような提案が既成政党から出てくるという期待そのものが低い中で、失敗した現在の責任を過去に求めて、隠蔽された過去を暴いたり、過去の延長としての歪んだ既得権にメスを入れる、それが本当は時間の浪費であっても、政治的な得失点差になってしまうからです。
一方のオバマ政権は、そのような閉塞感に引きずられたり、閉塞感を利用できたりということはありません。ズバリ、公約を実現できるかが問われています。では、医療保険改革の停滞は政治的失点になるのでしょうか? 失点ではあります。ですが、決定的ではありません。というのは、政治的に理由があります。まず、国論が賛否に分裂する中で、右と左が組むことはありません。勿論、この医療保険問題では、右と左に分裂した勢力がオバマの足を引っ張っているのは事実ですが、その両者は政治力学として中間的な案を潰すように動いてはいても、手を組むことはないのです。
問題は共和党です。サラ・ペイリンを象徴的なリーダーに担ぐ「ティーパーティー」運動が党内党として、勢力を伸ばしているのですが、これがクラシックな共和党穏健派をどんどん潰しながら増殖しているのです。アリゾナでは「マケインおろし」に続いて、ダン・クエール元副大統領の息子が下院に出る構えだそうですし、テキサスでは「公立校で宗教教育を」などという主張が出てきていて、とにかくやりたい放題になっています。現時点では、共和党が中間選挙については優位な戦いを進めていますが、この「宗教右派+アンチエリート怨念」のモンスターというべき「ティーパーティー」が調子に乗りすぎると、無党派票の離反など思わぬ副作用もあるかもしれません。
非常に単純化して言えば、共和党が右に引っ張られすぎるような「敵失」に陥った場合、そして景気の回復基調が強固になった場合には、オバマは中間選挙で善戦して、2012年の再選への道筋が出てくるように思います。その一方で、鳩山政権は、仮に公明党が入って連立を組み替えたとしても、過去の清算でまだまだ数年は政治的得点が出来てしまう中で、真の成長戦略、真の日本若返り策を実現できないまま、ズルズルと続くことが予想されます。仮にそうなったときには、日米はそもそも目指すものが大きく異なってくるかもしれません。
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