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冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
『ポニョ』で盛り上がるアメリカ
日本での公開から遅れること1年半、ようやくアメリカで『崖の上のポニョ』が「Ponyo」というタイトルで公開されました。8月14日のリリースというのは中途半端なようですが、夏休みの大作が一段落した一方で、子供はまだまだ夏休みが続く中で「やることがないから映画館にでも」という家族連れのニーズを踏まえたということでは、配給元のディズニーは本気なようです。
それにしても927館という限定公開(拡大公開の4分の1の規模)でありながら、封切りのウィークエンドに360万ドル(約3億4千万円)の興行収入というのは大健闘です。例えば前作の『ハウルの動く城』は36館でスタートして興収は470万ドル止まり、アカデミー賞を受賞して「ミヤザキ」の名前を一気に知らしめた『千と千尋の神隠し』の場合は26館でのスタートで興収はトータル1000万ドル止まりだったのですから、とにかく大成功と言って良いでしょう。普通はこのぐらいの「中ヒット」ですと、2週目に公開館が増えるのですが、今週はタランティーノ監督の新作をはじめ競争が激しく公開館数は据え置きでした。でも、大きな落ち込みもなく累計810万ドルに到達しています。
この数字に関しては、1999年にディズニーがスタジオジブリとの提携を記念するかのように、大物俳優を吹き替えに使った『もののけ姫』では、封切り時の公開館は8館だけ、結局2カ月の公開期間の興収が230万ドル止まりという「惨敗」だったことを考えると隔世の感があります。この10年間に、アメリカの親も子も世代が10歳分入れ替わっています。そして「クールジャパン」こと日本の文化が全米に行き渡っています。そんな中、「ハヤオ・ミヤザキ」の名前はアメリカ社会にかなり浸透してきていると言って良いと思います。
アメリカでの評価ですが、手書きのセル画による芸術的なクオリティや、躍動感などを評価するものが多く、宮崎作品のファンを自認する映画評論家のロジャー・エバートなどは「新たな古典の誕生」と手放しのほめようです。ちなみに、このエバートは、昔から「ミヤザキは英語を話す必要なんかない。神なんだから」と言って、ひたすら同監督の神格化に努めてきたのですが、その彼にしても今回の『ポニョ』は期待通りだということのようです。
私としては『千と千尋』の際には、海外での公開を前提に「日本をエキゾチックなものとして見る視線」に対するサービス精神がかなり見て取れましたが、今回の『ポニョ』にはそれがほとんど感じられなかった点が好ましく思えました。これは、この間に、アメリカで現代日本のカルチャーが違和感なく理解されてきている証拠でもあり、製作サイドにそのことが正確に伝わっていることもあるのだと思います。
アメリカでの映画評は「かなり日本的だけど、理解できる範囲」というのが一般的なようです。例えば、5歳の子供を嵐の夜に置いていってしまうとか、子供向きの映画なのに一瞬缶ビールが映ったり、一瞬血が流れるのが映ったり、というアメリカ映画ではあり得ない表現があるにも関わらず、審査をパスして「G指定(制限なし)」が取れているということも併せて、そうした異文化への寛容さを感じます。登場人物の名前も「ソウスケ」「ポニョ」「フジモト」とオリジナル通り、商店街やトンネルなどの表記も日本語のままでしたが、それも受け入れられているようです。
それはともかく、「生命の母なる初源の海への想い」という哲学は進化論への実感がなくては分からないメッセージであり、宮崎監督は「アメリカ人に分かるだろうか?」という疑問を抱きつつ、アメリカの観客に挑戦しているような雰囲気が感じられます。この映画の核となるべきこの点に関しては、恐らくは理解されていないように思います。それはまあ、仕方がないでしょう。
その一方で、小さな点ながら気になる箇所もいくつかありました。1つは、瀬戸内を連想させる海に「海上自衛隊(?)の練習ボート」はまだしも、「イージス艦」らしき船影が登場するという点です。平和と環境の権化というべき(海外でもそう信じられています)宮崎作品も保守化の波に抗しきれなかったのか、それとも現代において保守センチメントを拒否することが貴族的な傲慢につながるとして軌道修正したのか、この点は製作サイドに説明を求めたいと思いました。
また少年少女の淡い感情の交流というのは宮崎映画に一貫したテーマですが、今回は5歳児が主人公に設定されています。表向きは年齢の低い対象へのアプローチに戻りたかったからということですが、もしかしたら年齢をそこまで下げないとイノセントな感じが出ないという判断があったのかもしれません。仮にそうだとしたら、時代に抗したメッセージというより、時代に流された感じがして少々寂しいものを感じます。
さて、アメリカ版ですが、前述のように「初源なる海への想い」というニュアンスは消えてしまっていますが、かなり慎重に台本を練ったそうで、吹き替えはなかなかの仕上がりでした。マット・デイモンの「お父さん」は余り存在感はなかったですが、ティナ・フェイの「お母さん」は実にピッタリ来ていましたし、何と名優リーアム・ニーソンが「軽み」をちゃんと加えながら「フジモト」を演じていたのは立派でした。
いずれにしても依然として「日本文化=クールジャパン」のブームは続いています。こうしたクオリティのある作品を是非とも継続的に世界に送り出していって欲しいと思います。それはこのスタジオジブリに対してだけでなく、日本のエンタメ産業全体に対して、依然として期待感があるということです。
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