Picture Power

【写真特集】世界の真実を突き付ける報道写真の力

CAPTURING THE REALITY

Photographs by WORLD PRESS PHOTO 2023

2023年05月13日(土)17時15分

「世界報道写真単写真」大賞『マリウポリの産院空爆』By Evgeniy Maloletka ©EVGENIY MALOLETKA, ASSOCIATED PRESS

<戦争、抑圧、環境破壊......報道写真は世界が立ち向かわなければならない重い課題を私たちに突き付ける>

ウクライナ南東部の要衝マリウポリで、ロシア軍の砲撃が民間人を巻き込んだ悲劇を捉えた「マリウポリの産院空爆」が、今年の世界報道写真単写真部門の大賞に選ばれた。

66回目を迎えた世界報道写真コンテストは、前年に発表された報道写真とドキュメンタリー写真の中から最も重要で優れた作品を選出するもの。世界のプロのフォトグラファー3752人から6万点を超える応募があった。

筆者はアジア地域審査員長として最終審査を担当したが、イランと中国で国家の厳しい監視にさらされながらも静かな抗議を続け、信念を貫く勇敢な市民の写真に感銘を受けた。彼らへの連帯の意味も込めて佳作として選出した。

以下に紹介する受賞作は、単なる事象の記録ではなく、写真の意味をより深く読み込む必要がある。市民の自由を奪う権威主義、権力の空白による無秩序、行きすぎた資本主義、止まらない気候変動と環境破壊――世界が立ち向かわなければならない重い課題を私たちに突き付ける。

写真の力が、世界の相互理解を深め、未来を描くための議論を生み出すと信じたい。

――片岡英子(本誌フォトエディター)

<冒頭写真>
昨年3月9日に、ロシア軍の空爆を受けた産科病院から救出された妊婦。ミロン(ウクライナ語で「平和」)と名付けられた赤ちゃんは死産、母のイリーナ(32)も30分後に死亡した。地元写真家が命懸けで捉えたこの1枚は、無差別に民間人を巻き込み、悲劇を拡大し続けるウクライナ戦争の真実を告発する

ppwpp0202.jpg
「長期取材プロジェクト(北中米)」部門『美しい毒』 By Cristopher Rogel Blanquet
メキシコ南西部ゲレロ州の花市場の男性。農薬の影響が疑われる健康被害や身体障害に苦しむ人々を現地コミュニティーの内側からの視点で撮影した。特定の農薬の使用を禁止している国々でも、他国に対してはその農薬を販売してそれを使った農作物を輸入する例がある ©CRISTOPHER ROGEL BLANQUET, MEXICO, W. EUGENE SMITH GRANT/NATIONAL SYSTEM OF ART CREATORS-FONCA/GETTY IMAGES

ppwpp03.jpg
「世界報道写真ストーリー」大賞『平和の代償』 By Mads Nissen
貧困で食料を買えない家族を救うために、腎臓を3500ドルで売ったアフガニスタンの15歳の少年。2021年の米軍撤退後、タリバンが再び権力を掌握して諸外国が対外援助を停止するなか、アフガニスタン国民が日常生活で直面する困難を描いたストーリー ©MADS NISSEN-POLITIKEN/PANOS PICTURES

ppwpp04.jpg
「佳作(アジア)」『無題』 By Ahmad Halabisaz
イランでヒジャブの着用義務に抗議する女性(昨年12月)。背後の黒いベールをかぶった女性たちやモスクとの対比で、力強い抵抗を表すポートレート。イランでは昨年9月にヒジャブの「不適切」着用で拘束された女性が死亡し、抗議デモが全国に拡大した ©AHMAD HALABISAZ

ppwpp05.jpg
「オープン・フォーマット(東南アジア・オセアニア)」部門『赤外線で見た洪水』 By Chad Ajamian
オーストラリアのシドニー都市圏で発生した洪水による被災地域を空撮した赤外線画像。植物はピンクや赤、水はブルーやシアンに写ることで、浸水した地域の状況が識別しやすく、緊急対応や復旧に役立つ。頻発する洪水は、気候変動の影響と考えられている ©CHAD AJAMIAN

ppwpp06.jpg
「ストーリー(アフリカ)」部門『新行政首都』 By Nick Hannes
エジプトの首都カイロ東部の砂漠に省庁や一流企業を移転する、新行政首都計画の工事に参加する溶接工。渋滞や公害の緩和が期待される一方、シシ大統領の「レガシーづくり」や権力強化との批判もある。労働、移民、不平等などさまざまな問題を浮き彫りにした ©NICK HANNES, PANOS PICTURES

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英GDP、第3四半期は予想下回る前期比+0.1% 

ビジネス

英バーバリー、7─9月期既存店売上高が2年ぶり増加

ビジネス

レゾナック、1―9月期純利益90%減 半導体材料上

ワールド

焦点:中国の米国産大豆購入、国内供給過剰で再開は期
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編をディズニーが中止に、5000人超の「怒りの署名活動」に発展
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 8
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 9
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 10
    「麻薬密輸ボート」爆撃の瞬間を公開...米軍がカリブ…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story