Picture Power

【写真特集】ウトヤ島乱射事件、惨劇の被害者との10年目の再会

ONE DAY IN HISTORY

Photographs by ANDREA GJESTVANG

2021年07月31日(土)16時30分

pputoya06.jpg

【イナ・リバク (当時21歳〈下〉/ 現在31歳〈上〉)】
自宅近くの森で、倒木に横たわるイナ(下)。銃撃の間はカフェのピアノの後ろに隠れていたが、手やあご、胸の5カ所を撃たれた。「撃たれた! 撃たれた! 死んじゃう!」と叫んで飛び出していくと、7人の仲間が森の中に運んで手当てをしてくれた。彼らはイナの傷の上に石を置いて止血し、体温が下がらないようそばにいてくれた。そうして助けが来るまで1時間半ほど隠れていた。

現在はソーシャルワーカーとして働く一方、地元の市議会や州議会を通じて政治活動を行っている。18~20年には労働党・青年部(AUF)のリーダーを務めた。今年、パートナーとの間に第1子が生まれる予定だ。

「AUFのリーダーとして、私の役割は人々に希望を与えることだった。そのためには自分自身が心地よく過ごし、自分たちが経験した全てのことと折り合いをつける必要があった。人生には素敵なことがたくさんある。でも時々、7月22日の事件が私に真面目さと人間的な深みを与えてくれたと感じることがある。私は以前より明るくもなったし、暗くもなったと思う」

過去の自分にはこうアドバイスする。「自分に優しくして。あなたが経験したのはとても重大で、つらいことだから。幸い、あなたの世界はどんどん広がっていく。今は目の前にあると感じられることも、いずれ大きな人生の中の小さな一部になるだろう。未来にはいいことが待っている」

pputoya07.jpg


pputoya08.jpg

【セシリエ・ヘルロフセン (当時17歳〈下〉/ 現在26歳〈上〉)】
殺戮の間、セシリエはウトヤ島の南端に、親友のアンドレーネと一緒に隠れていた。肩とあごを撃たれたが、銃弾は親知らずのところで止まり、おかげで命が助かったのかもしれない。親友は亡くなり、セシリエは右腕を切断した。銃撃で受けた傷のせいで、セシリエは働くことができない。現在はミコという名の犬と暮らし、合唱団で歌っている。

「『ウトヤ刑務所』と私が呼んでいるところから出られるよう努力している。でも傷のせいで、完全には自由になれないだろう。私は強いが、それでも日々を生きていくのは大変だ。調子がいいときには、以前よりも生きる喜びを感じられる。より自信がついて、より内省的になった」

過去の自分にはこうアドバイスする。「負の側面には目を向けないで。始めたことは続けて。孤立しないで、近しい人々には自分の気持ちを打ち明けて。あなたは彼らの重荷ではないのだから」

pputoya09.jpg


pputoya10.jpg

【アレクサンデール・サンドベリ (当時16歳〈上〉/ 現在25歳〈下〉)】
銃撃が続いている間、アレクサンデールは講堂(下写真)にあるソファの下に隠れていた。犯人のブレイビクが捕まり警察が彼らを発見するまで、講堂には47人の若者が身を潜めていた。

現在はカスタマーサービスで働き、婚約者と一緒に暮らしている。「私が何より望むのは、普通の生活。結婚して子供をつくり、家や車を持ち、犬を飼う。野心的なものでなくていいから、楽しめる仕事がしたい。あの事件は、当たり前と思っていた全てのことがそうではないと思えた瞬間だった」

過去の自分にはこうアドバイスする。「いま考えているより、もっと多くのことをあなたは達成するだろう。絶望を感じているだろうが、これで終わりではない。これからはあなたの人生に、個人的な成功が続いていく。試験に受かり、運転免許を取り、アパートの部屋を買い、長い付き合いの恋人がいる。そんなことは起こらないと今は思うかもしれないが」

pputoya11.jpg

pputoya12.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ軍事作戦を大幅に拡大、広範囲制圧へ

ワールド

中国軍、東シナ海で実弾射撃訓練 台湾周辺の演習エス

ワールド

今年のドイツ成長率予想0.2%に下方修正、回復は緩

ワールド

米民主上院議員が25時間以上演説、過去最長 トラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story