Picture Power

【フォトエッセー】抗議と嘆きと連帯の聖地になったジョージ・フロイド殺害現場

GEORGE FLOYD SQUARE

Photographs by SARAH BLESENER

2020年07月02日(木)11時10分

【巡礼地】ミネアポリスのジョージ・フロイド殺害現場は追悼と団結の記念碑的な場所になりつつある。地域住民や全米からの巡礼者がこの地を訪れる

<黒人男性が警察官に命を奪われたミネアポリスの交差点は、アメリカ全土から巡礼者が訪れる約束の地になった。本誌「Black Lives Matter」特集より>

故郷の街が嘆きに沈み、怒りに燃え、静かに団結しているのは、心揺さぶられる光景だ。普段は訪れる人も少ない小さな街であるミネソタ州ミネアポリスで、アメリカ全土を、全世界を揺るがすニュースが起きることなどめったにない。
20200707issue_cover200.jpg
ただし警察の暴力と黒人差別は、この街にとっても珍しいことではない。2016年7月には、32歳の黒人男性フィランド・カスティールが郊外で恋人と一緒に車内にいたところを警察に撃たれて死亡した。直後の映像がSNSで拡散すると、街は抗議の声に包まれた。うだるような暑さのなか、人々はカスティールの母の訴えに耳を澄ませた。

抗議デモは平和裏に行われ、人々は法改正を要求した。4年後の5月25日、今度は46歳の黒人男性ジョージ・フロイドがこの街で警察官に命を奪われた。10分弱の映像が拡散すると街は世界のニュースの震源地と化し、デモと暴動が巻き起こった。今回、街を覆ったのは怒りと動乱だ。警察署や通りの建物には火が放たれ、警察は催涙ガスやゴム弾で応戦した。

カスティールの事件の後、次にこんなことが起きれば抗議運動は別次元に向かうだろうと考えていた私は、フロイドの事件に震撼した。警察当局による虐待と人種差別は長年の問題だ。ミネアポリスの人口に占める黒人の割合はたった20%であるにもかかわらず、09~19年に起きた警察の銃撃による犠牲者の実に60%が黒人だった。地域社会と警察当局との火種は既にくすぶっていたのだ。

願わくば、抗議のエネルギーを改革に......

私はフロイド殺害現場の交差点で長い時間を過ごすことにした。通りは次第に追悼と集いの場へと変容していった。抗議運動が街中に広がるなか、現場は地域住民が結束するための記念碑的な場所に。集まる人々は人種も年齢も階級も性別もさまざまで、通りでは料理が振る舞われ、通り沿いのガソリンスタンドは若者のダンススペースになっている。

アメリカ中から人々が訪れ、さながら巡礼地のようだ。壁にはフロイドのイラストが描かれ、近くの空き地には警察に殺害された黒人の名を刻んだ即席の「墓標」が作られた。

各地の抗議運動には多様な年代が参加しているが、ミネアポリスで目立つのは10~30代の若者たちだ。高齢世代はコロナ禍の最中で外出しづらい状況もあるだろうし、何十年も前から抗議デモが繰り返されたにもかかわらず状況が変わらないことへの諦めもあるかもしれない。

私はこの記念の地を写真に収めることにした。人々が集まり、嘆き、協力し合う様子を目にするだけでなく、静かな時の流れも感じられたからだ。私はここに集う一人一人に胸の内を聞き、ポートレートを撮影した。

地域社会がここまで結束し、世界中に広がる運動の波を引き起こすとは想像もしていなかった。あらゆる人種の若者たちが強く結束して立ち上がったことを誇らしく思う。

願わくば、抗議のエネルギーが改革につながればと思う。若い世代は今日もこの交差点に集い、アメリカ社会の構造的人種差別に変化を起こすよう訴え続けている。抗議はアメリカ中で続いていく。

――セイラ・ブレセナー

ppblm02.jpg

【アレクサ・クリステイエンセン(左)、ケイリー・ラス】「私たちは2人とも19歳で、違う人種で、そして姉妹。どちらも養子として引き取られて一緒に育った。互いにできるのは共感し合うこと。一緒に育ちはしたが、完全に異なる世界で大きくなったから。私たちは白人地区で育ち、私たちの声は聞き届けられないといつも感じていた。ただ、聞いてほしい。そして共感してほしい」


ppblm03.jpg

【リリス・スコット(左)、キャット・フィア】「ここに来たのは、私たち(白人)の持つ特権をうまく使うことによってあらゆる人種の人々を守る手段を学ぼうと思ったから。みんなここを訪れて考え、学ぶべきだと思う」


ppblm04.jpg

【暴動の残骸】数日にわたった抗議デモと暴動で放火され、焼け落ちたミネアポリスの酒店


ppblm05.jpg

【追悼の場】事件現場を訪れていたウェズリー・ハミック(左)とクリス・アンダーソン

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

欧州の銀行、前例のないリスクに備えを ECB警告

ビジネス

ブラジル、仮想通貨の国際決済に課税検討=関係筋

ビジネス

投資家がリスク選好強める、現金は「売りシグナル」点

ビジネス

AIブーム、崩壊ならどの企業にも影響=米アルファベ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 3
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 10
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story