Picture Power

アフリカ野生動物の密猟と食肉売買の現実

A SILENT ECOLOGICAL DISASTER

Photographs by STEFANO DE LUIGI

アフリカ野生動物の密猟と食肉売買の現実

A SILENT ECOLOGICAL DISASTER

Photographs by STEFANO DE LUIGI

カメルーンのこの国立公園内では昨年も54頭のゾウが密猟者に殺され、現在では10頭ほどしか生き残っていない

 無残に散らばった動物の骨。カメルーンの国立公園内で、密猟者に殺された3頭のゾウのものだ。先進国でこうした光景を目にすることはまずないが、アフリカ中部のチャドやカメルーンでは、希少な野生動物が密猟や違法な商取引の犠牲になることは現在進行形の危機だ。

 そもそも野生動物を狩ることは、多くのアフリカ諸国において文化的な習慣であり、伝統の一部として受け継がれてきたもの。残酷に感じる人もいるかもしれないが、野生動物の死体から得た食用の肉「ブッシュミート」も、現地の人々にとっては伝統的な食材と言える。

 現在ではこうした国々でも、保護対象の動物の商取引は、法律で禁止されている。問題は、法律違反であっても黙認されている場合が少なくないことだ。

ppanimal-map01.jpg

 実際には、カメルーンの都市部の市場でも、ブッシュミートを見つけることはできる。当局の監視の目を逃れるようにひっそりとだが、確かにサルや鳥など狩の獲物となった野生動物が売られている。

 地方に残る小規模な文化的習慣だった野生動物の肉の取引は、今や都市への人口流入とともに産業的な意味合いを持つようになった。さらに移民の増加に伴い、欧州各国でもブッシュミートの需要は高まっている。

 欧州では、こうした取引が厳しく制限されてきた。だが現在では、フランスにはアフリカから毎年300トンもの野生動物の肉が持ち込まれている。しかも値段は、アフリカの市場に並ぶときの何倍にも跳ね上がる。

 もう1つの問題は、象牙の違法取引(1キロ当たり約700ユーロになる)が、両国に隣接するナイジェリアのテロ組織「ボコ・ハラム」の資金源になっている現実だ。金に目がくらむ者、象牙や野生動物を欲しがる人のエゴが、動物だけでなく人間の虐殺行為を後押ししている。

 現地の文化と先進国の消費者、さらにはテロ組織の思惑が入り乱れて複雑化する密猟の問題。根本的な解決は簡単ではないが、問題を放置することで危険にさらされるのは、野生動物だけではない。


撮影:ステファノ・デ・ルイージ
1964年、ドイツ・ケルン生まれのイタリア人ドキュメンタリー写真家。写真集に世界のポルノ産業を捉えた『ポルノランド』(テームズ&ハドソン社刊)、盲目の人々を追った『ブランコ』(トロリー・ブックス社刊)などがある。欧米の主要な雑誌やギャラリーで作品を発表している

Photographs by Stefano de Luigi-VII

<本誌2016年6月14日号掲載>



【お知らせ】

『TEN YEARS OF PICTURE POWER 写真の力』

PPbook.jpg本誌に連載中の写真で世界を伝える「Picture Power」が、お陰様で連載10年を迎え1冊の本になりました。厳選した傑作25作品と、10年間に掲載した全482本の記録です。

スタンリー・グリーン/ ゲイリー・ナイト/パオロ・ペレグリン/本城直季/マーカス・ブリースデール/カイ・ウィーデンホッファー/クリス・ホンドロス/新井 卓/ティム・ヘザーリントン/リチャード・モス/岡原功祐/ゲーリー・コロナド/アリクサンドラ・ファツィーナ/ジム・ゴールドバーグ/Q・サカマキ/東川哲也/シャノン・ジェンセン/マーティン・ローマー/ギヨーム・エルボ/ジェローム・ディレイ/アンドルー・テスタ/パオロ・ウッズ/レアケ・ポッセルト/ダイナ・リトブスキー/ガイ・マーチン

新聞、ラジオ、写真誌などでも取り上げていただき、好評発売中です。


MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの焼け野原
  • 3
    「バイデン...寝てる?」トランプ就任式で「スリーピー・ジョー」が居眠りか...動画で検証
  • 4
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 5
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 6
    大統領令とは何か? 覆されることはあるのか、何で…
  • 7
    トランプ新政権はどうなる? 元側近スティーブ・バノ…
  • 8
    世界第3位の経済大国...「前年比0.2%減」マイナス経…
  • 9
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 10
    米アマゾン創業者ジェフ・ベゾスが大型ロケット打ち…
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 5
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中