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Picture Power
【ガイ・ティリム特別寄稿】 写真で伝えるということ
Photographs by Guy Tillim
【ガイ・ティリム特別寄稿】 写真で伝えるということ
Photographs by Guy Tillim
これらの写真で何を伝えたいのか? 正直、私にも分からない。1枚1枚についてその文脈を説明して回ることもできる。だがそれをしたら、写真を見る人のさまざまな解釈の仕方に制限を課してしまうことになるだろう。写真の面白さを文字で表現することはできない。それは音楽に近いと言えるだろう。頭で考えるよりも心で感じるものなのだ。写真というものは、見る人にステレオタイプを植えつけてしまうことがよくある。だから、いい写真とはある意味で、そうした固定観念に抵抗している1枚だろう。
撮るのは簡単だ。だがその写真が世界で自分が体験したことを深く伝えていないとしたら、意味がない。本当は繊細で深みがあり、曖昧さも秘めている世界での体験なのに、私がこうあってほしいと思う単純なイメージとして伝わってしまう。そんな表面的な側面しか見せていない、実際の体験をそのまま伝えていない写真には、面白味がない。曖昧なままのイメージでもいいではないか。明確な主張などいらない。写真の解釈の仕方は人それぞれ違っていていいのだ。
常に核心を突く、または挑発的な作品で、見る人の心を揺さぶる写真を撮るフォトグラファーがいるとしよう。彼には喝采が浴びせられている一方で、「ステレオタイプの運び屋」「クリシェの売人」といった批判の声もあるだろう。だが本当に問題視すべきなのは、私たちが彼を評価することによって、無意識に自分の弱さを隠そうとしていることだ。私たちは安易に偏見に陥ってしまう自分の弱さの責任を、彼に押しつけている。
写真が歴史の目撃者になり得るという事実を否定するつもりはない。だが過去の経験を記録しておく手段として写真が最適であるとは思えない。私の子供時代の記憶は夢のようにぼんやりしている。私の幼少期の写真を誰かに見せたところで、その人が追体験することも難しいだろう。確かに、こうした子供時代の写真から、過去に存在していたものや起きた事象を知ることはできる。だが写真として残されたイメージは、霧に包まれた遠い過去から導かれるフィクションの世界へと、私たちをいざなうにすぎない。
写真はもともと偏りのない中立的なものである、あるいはそうあるべきだ。見る側に主観があったとしても、客観的なイメージを提示して解釈の幅を持たせることが、写真の目的だ。写真に偏りがあるとしたら、それは被写体のほうにあるべきで、見る側や撮る側にあってはならない。だから私はシャッターを切るときはいつも、被写体となっている世界からこんな問いを突き付けられていると肝に銘じている。
「私という人間を、そしてこの世界を、まっさらな目でちゃんと見てほしい」
ここに掲載した作品が、そうした写真の見方への第一歩となってくれることを願う。
ガイ・ティリム (写真家)
1962年、南アフリカのヨハネスブルク生まれ。86年から報道写真家として活動を始め、ロイター通信、AFPなどに勤めた。ライカ・オスカー・バルナック賞をはじめ多くの著名な写真賞を受賞。近年は美術館やギャラリーで作品を発表している。本作は約10年の作品をまとめた新刊写真集「オ・フツロ・セルト(保証された未来)」(独シュタイドル社刊)からの抜粋。書名はMPLA(アンゴラ解放人民運動)党の政治スローガン
Photographs from "O Futuro Certo." (Steidl) by Guy Tillim
関連リンク:"写真集"O Futuro Certo." (Steidl)
(2015年3月10日号「ピクチャー・パワー」にガイ・ティリムから寄せられた原稿の全文です)
【お知らせ】
『TEN YEARS OF PICTURE POWER 写真の力』
本誌に連載中の写真で世界を伝える「Picture Power」が、お陰様で連載10年を迎え1冊の本になりました。厳選した傑作25作品と、10年間に掲載した全482本の記録です。
スタンリー・グリーン/ ゲイリー・ナイト/パオロ・ペレグリン/本城直季/マーカス・ブリースデール/カイ・ウィーデンホッファー/クリス・ホンドロス/新井 卓/ティム・ヘザーリントン/リチャード・モス/岡原功祐/ゲーリー・コロナド/アリクサンドラ・ファツィーナ/ジム・ゴールドバーグ/Q・サカマキ/東川哲也/シャノン・ジェンセン/マーティン・ローマー/ギヨーム・エルボ/ジェローム・ディレイ/アンドルー・テスタ/パオロ・ウッズ/レアケ・ポッセルト/ダイナ・リトブスキー/ガイ・マーチン
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