SPECIAL ADVERTISING SECTION

PHVが拓くこれからのモビリティ

vol.4 東北大学原子分子材料科学高等研究機構准教授 一杉太郎さん
高性能次世代電池「全固体電池で変わる」、次世代モビリティの未来とは

2015年11月24日(火)17時24分

東北大学原子分子材料科学高等研究機構准教授 一杉太郎さん

──全固体電池の特長はどこにあるのでしょうか。
 先ほども申し上げた通り、まずは安全性が向上する可能性があることです。これはモビリティが発展していくうえで絶対に欠かせない最も重要な要素であり、全固体電池はその安全性を高めます。次に、高出力が可能になることが挙げられます。高出力電池では、たくさんの電流を一気に流すことができ、自動車でいえば加速性能を向上させることができます。さらに、充電時間を短くすることも可能になります。この「安全性」「高出力」をキーワードに、いま次世代電池の研究が世界中で進んでいます。

──なぜ、全固体電池はそのような特長を持つことができたのですか。
 まず「安全性」でいえば、発火しやすい液体電解質を、燃えにくい固体電解質に換えることにより、液が漏れる心配と電解質が燃焼するリスクを小さくすることが可能になります。次に「高出力」については、全固体電池では電気抵抗が低い材料や、大電流を流しても変質しにくい材料を使うことが鍵です。ただ全固体電池では、用いる材料同士の接点、すなわち「界面」の電気抵抗が高いことが課題でした。そして、この電気抵抗をどこまで小さくすることができるのかもわかっていませんでした。しかし、私たちとトヨタ自動車の共同研究は、その電気抵抗をこれまでの液体電解質を使ったリチウムイオン電池に比べ、半分以下にすることを可能にしました。これは全固体高出力電池が実現可能であるということを実証したものです。作製工程を高真空下で行うことにより、不純物がなく高品質かつ、原子配列に乱れがない界面作製に成功しました。これによって、イオンが電池内を抵抗なくスムースに移動することが可能になり、低界面抵抗を実現したのです。

──次世代電池の製法において、真空状態が前提となると実用化は難しいのでは。
 確かに特殊な環境下での研究成果ではあります。ただ重要なことは、目標が「原理的に実現できない」のか、あるいは「工夫をすれば実現できる」のか、それを明らかにすることなのです。実用化を目指す上で、「工夫をすれば実現できる」のならば、エンジニアは様々な工夫をして、自信を持って実現を目指します。しかし、工夫をしても実現できるのかできないのかがわからないのでは、エンジニアは自信を持って開発を進められません。すると開発が成功する確率が低くなってしまいます。そのような意味で、今回はまず、「低抵抗界面は実現可能である」と実証したことに大きな意義があります。
 現在は特殊な環境が必要ですが、研究開発が進むと、より安価な方法で実現する方法が見いだされるものです。何度も過去にそのような経験をしてきました。現在は、液晶ディスプレイや半導体デバイス製造と同じような真空状態が必要ですが、研究開発が進めば、きっと別の方法で実現可能になることでしょう。なにしろ、低抵抗界面が実現可能であることがわかっているのですから。全固体電池開発には、この他にもいくつか課題はありますが、一つひとつ解決することにより、「量産性」をクリアでき、実用化へ向けて一気に進んでいくことでしょう。

MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中