コラム

南シナ海、強引に国際秩序を変えようとする中国

2016年05月02日(月)18時00分

 しかし、国連安保理常任理事国の中に、国際秩序を強引に実力で変えようとする国家が現れれば、集団安全保障の共同体である国連の機能が低下しかねない。中国は、自国の利益だけでなく、地域や国際社会の利益を考えて行動しなければ、却って、中国が利用したい国連の枠組み自体を弱体化させてしまうことになるだろう。

 日本や米国にとって、国際社会の秩序を維持することが国益につながる。国連は、価値観を共有する国々が形成する、戦争防止のための共同体である。しかし、中国は、これまで、「価値観を共有できない大国」として台頭してきた。価値観を共有できない主体同士が、協調することは難しい。国連という共同体の存在意義が問われているのだ。

 短期的には、中国との間で緊張が高まっても、「航行の自由作戦」等の軍事行動によって、中国の主張が無効であることを示さなければ、「大国が軍事力を用いて自由にルールを変更できる」という新たな原則を許してしまう。常任理事国の拒否権等によって安全保障理事会が機能しなくなるという戦勝国クラブの弊害が再発するのであれば、国連だけでなく、G7等、利用できる全ての枠組みの中で、これこそが問題なのだという認識を共有し、多くの国が軍事プレゼンスによる意思表示を行う必要がある。

 一方で、双方が軍事力を誇示してけん制するだけでは緊張は高まる一方である。緊張が高まれば、軍事衝突の可能性が高くなる。長期的には中国が受け入れられるゲームのルール、中国が国際社会と共有できる「価値」を創り出す努力も継続しなければならない。

プロフィール

小原凡司

笹川平和財団特任研究員・元駐中国防衛駐在官
1963年生まれ。1985年防衛大学校卒業、1998年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。安全保障情報を扱う「IHSジェーンズ」のアナリスト・ビジネスデベロップメントマネージャー、東京財団研究員などを経て、2017年6月から現職。近著『曲がり角に立つ中国:トランプ政権と日中関係のゆくえ』(NTT出版、共著者・日本エネルギー経済研究所豊田正和理事長)の他、『何が戦争を止めるのか』(ディスカバー・トゥエンティワン)、『中国の軍事戦略』(東洋経済新報社)、『中国軍の実態 習近平の野望と軍拡の脅威 Wedgeセレクション』(共著、ウェッジ)、『軍事大国・中国の正体』(徳間書店)など著書多数。

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