コラム

結婚して分かった「選択的夫婦別姓」の必要性と男尊女卑が続く日本社会

2024年09月13日(金)17時51分

夫婦別姓反対派の人々の「本音」

夫婦別姓に反対している人々は、「家族の絆が弱まる」「夫婦の一体感が失われる」「子どもがかわいそう」といった理由を述べているが、すでに多くの人が指摘している通り、どれも根拠なき思い込みと言える。特に「子どもがかわいそう」に至っては、偏見や独断を含んでいると言っていい。

にもかかわらず、夫婦別姓に頑なに反対するのは、彼らがそもそも、「両性の本質的平等」という価値観を受け入れていないからではないだろうか。要は、男女平等がイヤなのだ。

そんなバカなと思うかもしれないが、SNSをのぞいて見れば、日本にはまだまだ「誰か差別をしたい人たち」が山ほどいることがよく分かる。自分に誇れるものが何一つない時、人は容易に差別に走る。そういう人たちから見れば、差別是正策である夫婦別姓には、反感を覚えるのだろう。無論、反対派の人々全員が差別主義者とは思わないが、そういう層を多分に含んでいるのは間違いないだろう。

反対派の人々が「家族の絆が失われる」と語るとき、彼らの頭のなかにある「家族」とは、戦前の約50年間だけ続いた「家制度」に基づく家族像である。だが、それは1945年の敗戦によってすでに瓦解している。残っているのは、GHQが手をつけそびれた家制度の残滓ともいうべき強制的夫婦同姓である。

夫婦別姓反対派の人々の本音は、きっと次のようなものではないだろうか。

「女性が働いて社会に出る必要などありません。男性は外で働き、女性は家を守って夫を助ける。これが日本の正しい家族の姿です。女性は結婚したら、相手の家に入るもの。だからこそ、妻は夫の苗字を名乗るのです。男性には男性の役割、女性には女性の役割がある。これは差別ではなく区別です。欧米から押し付けられている『男女平等』、『ジェンダー平等』といった価値観は、日本社会には合いません。私たちは、できることなら戦前の家制度を復活させたい。家制度に真っ向から反する夫婦別姓には、反対です」

むしろ、こう正直に言ってくれたほうがよほど分かりやすい。それなら、一種の復古主義的な価値観として筋が通っており、理解できなくはない(賛成はしないが)。

日本も家族も「崩壊しない」

現代の尺度で見れば女性差別的な要素が強い「家制度」も、日本が近代化を成し遂げた直後の一定期間は、天皇の権威を高め、社会秩序を安定させる上で必要だったのかもしれない。だが、終戦から80年近く経った今、戦前の差別的な社会制度に固執する理由はどこにもない。

明治時代と異なり、現在は象徴天皇制が日本全体で広く支持されており、夫婦別姓を解禁したからといって、天皇の権威が揺らぐことはあり得ない。反対派の人々が懸念している「日本が崩壊する」、「家族が崩壊する」といった言説は観念論に終始している。

戸籍制度が崩壊すると言っている人もいるが、それも杞憂だろう。夫婦別姓の場合は戸籍簿にそれぞれフルネームを記載すれば良いだけのことであり、戸籍制度は従来通り正常に機能する。

また、反対派の人々は通称使用の拡大を目指すというが、1人の人間が2つの名前を使い分けるのは、むしろ社会の混乱を生むのではないか。在日コリアンのように歴史的背景や合理的理由があればある程度やむを得ないが、一般的な多くの国民を対象に「結婚すれば名前を複数持てる制度」を作るのは、本名の意義を危うくさせる。

2つの名前の使い分けが国際社会で通用するはずもなく、ビザ取得など多くの場面で不具合が残り、日本はますます「遅れた国」になっていくだろう。不毛な議論に莫大な時間と金銭的コストを費やしながら日本はさらに衰退し、誇りを持てない国になっていく。

ところで、私の場合はいったんは妻の姓に統一しようと考えたが、私の父親が反対したため妻に折れてもらい、世の中の約95%の人々と同じパターンにいったんは落ち着いた。だが、どうも釈然としないまま結婚生活を続けている。夫婦同姓が良いと思う人は同姓を使い、別姓が良いと思う人は別姓を使える世の中に、早く変わって欲しいものである。

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プロフィール

西谷 格

(にしたに・ただす)
ライター。1981年、神奈川県生まれ。早稲田大学社会科学部卒。地方紙「新潟日報」記者を経てフリーランスとして活動。2009年に上海に移住、2015年まで現地から中国の現状をレポートした。著書に『ルポ 中国「潜入バイト」日記』 (小学館新書)、『ルポ デジタルチャイナ体験記』(PHP新書)など。

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