最新記事
シリーズ日本再発見

こうした人物が中国に生まれず残念...福沢諭吉が、現代中国の「知識人」から敬愛されている理由

2023年08月17日(木)19時24分
唐辛子(コラムニスト)
福沢諭吉

AFLO

<「脱亜論の提唱者で、日本を東アジア文化の(悪)循環から救った」と評され、中国の知識層に注目される福沢諭吉。本誌「世界が尊敬する日本人100」特集より>

あなたが最も尊敬する日本人は誰ですか」と、知識人の多い中華圏のツイッターユーザーを対象に筆者がアンケート調査してみると、1位は福沢諭吉。

「日本国民を啓蒙した」「大学を設立し、先進的な思想と文化を広めた」などのコメントの中で、際立っていたのは「脱亜論の提唱者で、日本を東アジア文化の(悪)循環から救った」という理由だ。

「東アジア文化」とは儒教文化のこと。古代中国に始まる儒教文化は、特に日本や韓国など漢字文化圏の東アジアの国に深い影響を与えてきた。福沢はこの儒教の教えが日本の近代化を妨げると考えた。

例えば儒教の「公」は、現代の「公民社会」の「公」ではなく、支配者あるいは政府を指す。政府と人民の間には垂直的、身分制的、階層的な関係があり、それは公的領域における水平的な関係ではない、と福沢は指摘した。儒教文化の影響を克服しないと日本人の精神的な革新は達成できず、平等な公的対話に基づく国民の形成もできない──。

「脱亜」つまりアジア的な価値観である儒教文化から脱却できてこそ、日本は初めて本質的に西洋から文明を受け入れ、西洋と比肩する文明化された国家・国民に発展できると、福沢は主張した。

共に時代の大変革に直面した日本と中国の分岐点

福沢の脱亜論は近年、中国の知識層に注目されている。特に欧米の民主主義的価値観に深く影響を受けた自由派の間で人気がある。

19 世紀中期の中国と日本は、共に巨大な時代の変革に直面していた。日本は福沢のような啓蒙思想家がいたおかげで儒教的な価値観から抜け出し、西洋的な文明を素直に受け入れ、近・現代国家として発展した。一方で、中国は100 年以上も西洋的な価値観を拒否し続け、政府と人民の垂直的な関係が共産党政権の今も変わらない。

福沢は生涯官職に就かず、近代思想を日本国民に紹介した。福沢のような人物が中国に生まれなかったことを、心ある中国人は心から残念に思っている。

福沢諭吉
Yukichi Fukuzawa
●啓蒙家


ニューズウィーク日本版 大森元貴「言葉の力」
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月15日号(7月8日発売)は「大森元貴『言葉の力』」特集。[ロングインタビュー]時代を映すアーティスト・大森元貴/[特別寄稿]羽生結弦がつづる「私はこの歌に救われた」


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英生産者物価、従来想定より大幅上昇か 統計局が数字

ワールド

トランプ氏、カナダに35%関税 他の大半の国は「一

ワールド

対ロ軍事支援行った企業、ウクライナ復興から排除すべ

ワールド

米新学期商戦、今年の支出は減少か 関税などで予算圧
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 9
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 10
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中