2020年の日本の外食産業に差した3つの光
イラスト:二階堂ちはる
<「テイクアウト/デリバリー需要」だけじゃない――。コロナ禍のため飲食業界にとってかつてないほど厳しい年となったが、そんななかでも工夫を凝らし、消費者のさまざまなニーズをくみ取った企業があった>
いまだ感染拡大が続くコロナ禍のため、2020年は日本の飲食業界にとってかつてないほど厳しい年になった。期待の「GoToイート」キャンペーンも、予算額到達により、約2カ月間でポイント付与が終了。さらに東京都や大阪市、札幌市などでは、再び飲食店への営業時間の短縮要請が出されている。
しかし、そんな現状にあってもなお、飲食店は工夫を凝らし、消費者のさまざまなニーズを汲み取っている。今回はそんな取り組みを紹介し、2020年の飲食業界を振り返る。
まずはコロナ禍で大きく膨らんだ「テイクアウト/デリバリー需要」だ。日本フードサービス協会が発表した2020年10月度の「外食産業市場動向調査」によれば、ファストフードでは定番だったテイクアウトにデリバリーも加わった結果、ファストフード業態全体の売り上げは前年同月比で101.8%を達成。マクドナルドやケンタッキーフライドチキンなど、コロナ前から自前でデリバリーを提供していた企業もある。
「コロナ禍により、ファストフード以外の飲食店の多くもデリバリーに乗り出しました」とは、外食産業歴40年を誇るフードサービス・ジャーナリストの千葉哲幸氏。「塚田農場などを展開するエー・ピーホールディングスが、新規事業として宅配専門店『キッチンクラウド』を立ち上げ、10月22日にその旗艦店を横浜市にオープンしました」
キッチンクラウドのターゲットは、主にデリバリーを活用してきた独身世帯ではなくファミリー層。「ちょっとプレミアム」をコンセプトに、客単価も4000円程度を想定する。「料理はレストランクオリティで、容器も従来のような使い捨てではなく、店舗で使用する食器が使用されるのです(のちに回収)」(千葉氏)。
なお、宅配されるメニューは宮崎県産有田牛を使用した「幸福のハンバーグ」や、塚田農場でも人気の若鶏を使った「チキン南蛮」などの「おかずもの」から、「牛ホホカレー」や「ふわとろオムライス」といった「ご飯もの」もラインアップと、ランチ需要も見越している。
キッチンクラウドのように、キッチンとデリバリー機能のみで展開する業態は、実店舗が存在しないことから「ゴーストレストラン/ゴーストキッチン」と称されるが、コロナ禍によりこの業態が急増。これをサポートする事業も誕生し、活況を呈している。千葉氏が解説する。
「それが『シェア型クラウドキッチン』という、キッチンをテナントとして貸し出すビジネスです」。その先駆けである「キッチンベース」は、現在、東京の中目黒と神楽坂にシェア型クラウドキッチンを有し、テナントがすべて埋まっている。
また、一気に加速したのが、SNSやスマホアプリの活用をはじめとする飲食店のIT導入だ。その急速な浸透には千葉氏も「未来が突然やってきた感じだ」と目を丸くする。「長引くコロナ禍で経営者の価値観も変わった。今や駅前や繁華街といった『一等地神話』という概念がなくなったといってもいい。ITの導入により『スマホが客を連れてくる』といっても過言ではなくなってきたのです」
食のサブスクで掘り起こす「応援需要」
急速に広まりつつある飲食店のIT化。その本命となりうるサービスが「食のサブスクリプション」だ。サブスクリプション(以下、サブスク)とは定額制のビジネスモデルのことであり、動画や音楽などのエンタメ系をはじめ、ファッションに車と、多種多様なサブスクが存在している。
国内初となる食のサブスクサービスを提供しているのが、飲食市場に特化したマーケティング支援を行うfavyだ。創業者の高梨巧氏は、IT企業でデジタルマーケティングを担ってきたアドテクの第一人者。「飲食業界にはデジタル化の余地がある」と2015年に同社を設立し、2019年に「favyサブスク」をリリースした。高梨氏が経緯を語る。
「オーナーさんはよく『常連さんあってのビジネスだ』と言います。しかし、その常連さんのメールアドレスすら知らないことが多い。顧客管理がとても曖昧で、コロナ禍になって常連さんに助けてほしくても、連絡することすらできません。そんな飲食店にテクノロジーによる経営支援策を導入しようというのが弊社の目的であり、そのひとつが『favyサブスク』なのです」
「favyサブスク」と飲食店の契約は月額1万円だが、年間契約にすれば月額は7000円となる。店側はこのサブスクを使い、客へどんなサービスを提供すればいいのか。月極めで定額を払う契約で来店ごとにドリンクを1杯無料にするなど、さまざまな「定額サービス」があり得るが......。
「お客様に提供されるサービスは、基本的には店舗が決定しますが、そのプランが利益を生むのか否か、クロスセル(組み合わせ購入)やアップセル(乗り換え契約)が生まれやすいか否かなどを、実証データを元に提案させていただきます」(高梨氏)。
同社の強みはその実証データにある。実は同社は11店の飲食店を自ら運営しており、そのうちハンドドリップのコーヒー店と会員制レストランに、2016年からサブスクを導入。3年かけて実証実験を積み重ねたデータなのだ。「我々のシステムを活用いただくことで、来店頻度や月間単価、またはライフタイムバリューといった将来の収益を試算することも可能です」と、高梨氏は胸を張る。