最新記事
シリーズ日本再発見

良くないと分かっているが......という人に「ハームリダクション的」な商品を

2019年02月26日(火)11時00分
高野智宏

カフェインを含まない「デカフェ」コーヒーがブームに sf_foodphoto-iStock.

<デカフェのコーヒーや、低カロリーのスイーツ。これらが人気を博す背景には「ハームリダクション」あるいは「ギルトフリー」と呼ばれる考え方がある>

「サードウェーブ(第三の波)」とされる近年のコーヒーブーム。スペシャルティコーヒーなる希少な豆の存在や、浅煎りで豆本来の特徴を際立たせた焙煎方法など、ブームを牽引する要因はいくつかあるが、そのひとつが、カフェインを含まないコーヒー「デカフェ」の人気である。

デカフェといえば、以前は妊婦などカフェインを摂取できない一部の人だけが飲んでいたものだった。しかし、昨今のブームでデカフェコーヒー豆の輸入量は激増。全日本コーヒー協会によれば、2000年は約59万キロだったのに対し2017年は約302万キロと、実に5倍以上に増えている。

巷のカフェや喫茶店のメニューで見かけるようになったのはもちろんのこと、スーパーでもデカフェやカフェインレスと表記されたインスタントコーヒーを目にすることが多くなった。なぜ、ここまでデカフェが人気なのか。

その背景には、どうやら「ハームリダクション」という概念の広がりも関係しているようだ。

ハームリダクションとは、主に薬物やアルコールなどの健康被害をもたらす行動習慣をただちにやめられない場合、その代替となる製品や施策を用いることで、可能な限り健康被害を低減しようという試み・プログラムのこと。

実例としては、薬物依存症患者に衛生的な注射器を配ったり、違法ドラッグの代わりに麻薬を処方したり。依存対象がアルコールの場合は節酒プログラムを提供するなどで、ヨーロッパがその発祥となる。

しかし、最近になってその対象はドラッグやアルコールのみならず、各方面へ波及している。冒頭で紹介したように、「カフェインを摂ることができない(摂りたくない)けれどコーヒーは楽しみたい」というニーズを取り込んだデカフェなど、食品業界において特に顕著なようだ。

「食べたいけれど、カロリーは摂りたくない」に応える

考えてみれば、食品こそ誰もが「食べたいけれど、カロリーは摂りたくない」という、矛盾と葛藤に満ちたジャンルだ。デカフェ以外にも、とんこつラーメンに対するはるさめヌードルのような、「ハームリダクション的」な代替商品が人気であることもうなずける。

そんな食品業界において今、ハームリダクションと重なり合う言葉が注目を集めている。「ギルトフリー」だ。「ギルト:罪」で「フリー:ない」、つまり「罪悪感のない」を意味し、カロリーや糖質を抑えた、食べても罪悪感を抱かないスイーツや料理が人気を博しているのだ。

「完全に断つことができないから、デメリットの少ない代替品で欲求を満たすという意味では、ハームリダクションの概念に似ていますよね」とは、代表的なギルトフリー・スイーツの1つ、オーストラリア発祥の「ブリスボール」を、オリジナルレシピで開発・販売するフードジュエリー(東京・豊島区)の創業者兼CEOである坪井玲奈さんだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

原油先物、週間で4カ月半ぶり下落率に トランプ関税

ビジネス

クシュタール、米当局の買収承認得るための道筋をセブ

ビジネス

アングル:全米で広がる反マスク行動 「#テスラたた

ワールド

トルコ中銀が2.5%利下げ、インフレ鈍化で 先行き
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 5
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 6
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中