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日本各地のマラソン大会が「外国人ランナー歓迎」の理由

2018年04月27日(金)11時50分
井上 拓

台湾のマラソン大会への沖縄市民の参加や表敬訪問等、時間をかけて相互交流が活性化していき、それに合わせてNAHAマラソンでは、英語・中国語の案内作成や通訳ボランティアの配置等、大会の受け入れ体制を強化してきたそうだ。

台湾第2の都市で開催される高雄国際マラソンは、こうした交流の中で誕生したもの。高雄市の関係者がNAHAマラソンに感激したことが発端となり、同大会をモデルにして一緒に作り上げたのだという。マラソン友好の輪による関係構築がインバウンド人気として、花開いているかたちだ。

早稲田大学の原田教授によると「中国や台湾で起きたマラソンブームも大きいですね。マラソンは、主目的となりうるコンテンツ。マラソンと観光の視点で、地域ならではの+αを組み合わせたスポーツツーリズムがまさに求められているのでしょう」。

モノを消費するだけではなく、旅先の文化に触れ、住民との交流を深め、旅が持つ体験価値を高めていく。そんな体験型・交流型の旅行形態への需要変化も重なっているようだ。

現状、日本のマラソンツーリズムはまだ発展途上であり、より多くのインバウンドランナー層を取り込んでいくには、大会や地域の魅力を戦略的に伝えながら誘致できるかが鍵となる。

そこで、スポーツコミッションのような誘致専門の機能が担う役割は大きくなってきている。まだ交通インフラが充実する都市型大会のほうが目立ってはいるが、地方自治体における集客や連携の取り組みの成功事例として「新潟シティマラソン」がある、と原田教授が教えてくれた。

新潟シティマラソンは、萬代橋や海岸線の美しい景観を走る新潟最大のランニングイベント。2018年で36回目を迎える。新潟市文化・スポーツコミッションが設立されたのは2013年だ。

コミッションの設立以降、観光庁やJSTA(日本スポーツツーリズム推進機構)主催による台湾でのイベントへ出展、旅行代理店と連携し、大会日程に合わせたチャーター便の手配、酒蔵見学やショッピング等の観光を兼ねたマラソンコース下見バスツアー企画も実施している。

大会運営側との連携も強化され、英語やピクトグラムの表示を増やし、海外ランナー専用の休憩所を設置、給食としてポッポ焼や米菓を提供している。さらには完走者にコシヒカリを使ったジャンボおにぎりの提供等、新潟らしい特色も伝えられるよう創意工夫を施している。

中国や台湾のランナーにも概ね好評で、参加者の口コミも徐々に広がっており、設立当初はゼロに近かった外国人ランナーが、現在では100人近く参加するまでに着実に数字を積み上げてきている。今後は海外のマラソン大会との連携や、ターゲットエリアの拡大、情報発信も強化していく予定だという。

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