コラム

ジョブズの英語プレゼン術に学ぼう

2011年10月10日(月)22時10分

 先週亡くなったスティーブ・ジョブズは、言わずと知れたイノベーションの天才。彼がもう1つ、類まれな才能を見せたのがスピーチの巧みさだ。

 最も有名なのは、「Stay hungry, stay foolish.(ハングリーであり続けろ、愚かであり続けろ)」というメッセージで締めくくった05年のスタンフォード大学卒業式でのスピーチだろう。恒例のマックワールド・エキスポ(アップルの新製品展示会)でも、ジーンズ姿で壇上を軽やかに歩きながら、シンプルな言葉で革新的な新商品を発表するジョブズの基調講演は、商品の中身に負けないくらい魅力的で、聞き手をワクワクさせたものだ。

 もう1人、巧みなスピーチで聴衆を熱狂させる著名人といえば、08年の大統領選を勝ち進んだ頃のオバマ米大統領(最近は旗色が悪く、演説も切れ味を欠いているが)。本誌では2年ほど前、オバマやジョブズのような「演説の達人」の英語が聞き手の心を揺さぶる理由を分析し、日本人のような非ネイティブにも真似できる英語コミュニケーションのコツを解説する特集を組んだ。

 取材を通してわかったのは、ジェスチャーや声の強弱といったデリバリー(話し方)のスキルから、相手の名前を呼ぶタイミングまで、自然にみえる彼らの話術の裏に数々のテクニックがちりばめられていること。さらに印象的だったのは、彼らのコミュニケ-ション能力が決して天賦の才ではなく、地道な努力の賜物だったことだ。マックワールド・エキスポでのジョブズは、ステージを歩きまわる歩数から次のスライドに移るタイミングまですべてを念入りに計算し、何度もリハーサルを重ねていたという。

 そんな背景に思いを馳せながら当時の映像を見返すと、人々とITの関係を何度も劇的に変えてきたアップルの偉業は、画期的なアイデアを生み出し、それを魅力的な言葉で世界にアピールするというジョブズの2つの卓越した能力の相乗効果だったのだと、あらためて思う。冥福を祈りたい。
 
        *

 本誌では、上記の特集をはじめ様々な切り口で英語学習に関する記事を掲載してきました。このたび、その中から日本人学習者に役立つ情報を厳選し、再編集した単行本『ニューズウィーク日本版ペーパーバックス:英語超入門』が出版されました。ビジネスに必要な英語力を効率よく身につける方法を科学的に分析した記事や、英文メール&電話のお役立ち表現集、外国人と働く際の思わぬ落とし穴など、仕事に役立つ英語力を磨くためのノウハウが詰まっています。是非ご覧ください。

──編集部・井口景子

NWPB_eigo.jpg


このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア政府系ファンド責任者、今週訪米へ 米特使と会

ビジネス

欧州株ETFへの資金流入、過去最高 不透明感強まる

ワールド

カナダ製造業PMI、3月は1年3カ月ぶり低水準 貿

ワールド

米、LNG輸出巡る規則撤廃 前政権の「認可後7年以
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story