コラム

イギリス2大政党制は終わらない

2010年05月19日(水)12時00分

 5月11日に戦後初の連立政権が発足したイギリス。これまで第3党として2大政党制の陰に隠れてきた自由民主党が、選挙で第1党となった保守党に突きつけた連立の条件は選挙制度改革だった。

今回の選挙でも自民党の得票率は、29%の労働党に迫る23%だったが、結果として得られた議席数は労働党の258に対して57だけ。選挙前に自民党フィーバーが巻き起こっていた割には、前回選挙での62議席すら下回る結果となってしまった。

 これにはイギリス国民も、現行の選挙制度の歪みを痛感したようだ。選挙後、英インディペンデント・オン・サンデー紙が行った調査では、有権者の69%が小選挙区制の変更が必要だと考えていることが明らかに。小選挙区制は各選挙区で最も多く得票した候補者1人が自動的に選出されるという単純な仕組みで、これまでの2大政党制を支えてきた大政党に有利な仕組みだった。

 これに対して新政権が導入を検討しているのは、「選択投票制」というもの。投票する人は候補者のリストに、支持する順番を1位から書いていき、「1」を過半数獲得した候補者がいれば、その人が当選する。だが接戦となって過半数を獲得する候補者がいない場合は、最下位の候補が除外され、その候補者の次に支持された候補者、つまり「2」を付けられた候補者に票が加算されていく。これを、過半数を上回る候補者が出るまで繰り返す。

 単純に考えれば自民党に有利に働く制度だろう。保守党の支持者は保守党候補に「1」を付け、「2」を「労働党よりはマシだ」と、自民党候補に付けるのではないだろうか。労働党支持者にしても同じだ。

 だが問題は、次の選挙まで自民党が今と同じくらいの人気を保っていられるかどうかだ。デービッド・キャメロン新首相は右派的な保守党の中では中道寄りなうえ、中道左派的な自民党との連立によって、保守党がさらに中間層を取り込む見込みも高まった。つまり政権に入ったことで自民党は、独自色を失って支持層を保守党に奪われる危険にさらされてしまったということだ。

 せっかく悲願の選挙改革が手に入るかもしれないのに、そのときには元の弱小政党に戻ってしまっていて、やっぱり選挙で勝てない......。そんなことにならないためにも、副首相となった自民党のニック・クレッグ党首が本当に手腕を試されることになるのはこれからだろう。

――編集部・藤田岳人

このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相、あす午前11時に会見 予算の年度内成立「

ワールド

年度内に予算成立、折衷案で暫定案回避 石破首相「熟

ビジネス

ファーウェイ、24年純利益は28%減 売上高は5年

ビジネス

フジHD、中居氏巡る第三者委が報告書 「業務の延長
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 5
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story