コラム

クロマグロ禁輸否決は日本の外交成果?

2010年04月06日(火)11時00分

 中東カタールのドーハで開かれていたワシントン条約締約国会議は、モナコやEU(欧州連合)が提案した大西洋・地中海産クロマグロの禁輸案を否決して、3月25日に閉幕した。日本や中国といった消費国だけでなく、沿岸漁業国や途上国の間に欧米が主導する資源保護の手法への反発が広がったことが、否決の決め手となったようだ。

 これを日本の外交成果だという見方がある。外務省と農林水産省が多くの職員を派遣して、提案否決を各国に働きかけたことは事実だ。最近、クジラやイルカの問題で日本の食文化は欧米諸国の批判にさらされていたので、ようやく一矢報いたと感じるのも無理はない。

 一方の欧米諸国にとっては面白くない事態だ。クロマグロ漁の是非はとにかく、今回の否決がニュース記事で日本がどう報じられてたか見てみたい。

 ニューヨーク・タイムズ紙は3月20日付けの社説欄でこの件を扱っている。タイトルは「漁業ロビーがまた勝利」

「投票が先進国と途上国で割れた一面はあった。しかし間違ってはならない。(否決は)情け容赦ない日本のロビー活動の結果だ。日本国民は世界のクロマグロの4分の3を消費している。これによってチュニジアなど大規模な水産業を持つ、より貧しい国に安定した市場を提供している」

 と、余り印象は良くない。さらに3月後半のインターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙に掲載された25日付けのAP電は、もっと詳細に日本のロビー活動を紹介している。タイトルは「国連保護会議の勝者は日本」

「会議中、そこら中に日本人がいた。この2週間、主要な採決の前になると何十人という日本の政府職員が会議場を動き回り、途方に暮れながらも協力的な各国代表に指導を与えていた。クロマグロ禁輸案採決の前夜、カタールの日本大使館で各国代表を招いたレセプションを開き、そこでは大西洋産クロマグロを使ったスシが振る舞われた」

「日本が外交の枠を超えて、会議の精神に反する戦略を使った、と非難する各国代表もいる。ケニア代表は、日本が各国代表に対して日本の立場を支持するよう圧力をかけて、アフリカ諸国の漁業担当の政府職員が会議に出席できるよう費用を支払った、と非難する。これについては日本政府は繰り返し否定していた」

 悪意的な解釈をすべて真に受ける必要は決してないだろう。しかし、こうした報道がされたことも念頭に置きつつ、日本は今後クロマグロの資源管理に積極的に関与する姿勢を示す必要があることは確かだ。

――編集部・知久敏之

このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story