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ニューズウィーク日本版編集部 From the Newsroom
アバター惨敗に泣くマードックの懐事情
3月7日、映画『アバター』がアカデミー賞で作品賞も監督賞も逃したことに一番がっかりしたのは、ニューズ・コーポレーションのルパート・マードック会長かもしれない。『アバター』を配給する20世紀フォックスを傘下にもつニューズ・コーポレーションは、アバター特需に浮かれるどころか、傘下のニューズ・アメリカ・マーケティング(NAM)に対する訴訟で大損している。訴訟による巨額の損失は、歴代興行収入1位の『アバター』が稼ぎ出す莫大な利益さえ相殺しそうな勢いだ。
ブルームバーグによると、NAMは1月末、同社を相手取って訴訟を起こしたバラシス・コミュニケーションズに対し、5億ドルの和解金を支払うことに合意した。NAMとバラシスはスーパーマーケットで売られるシリアルや石鹸、クッキーなどの新聞折り込み用の「クーポン」事業における競合企業。バラシスはニューズが「市場を独占している」ことで15億ドルの損害を被ったと提訴し、ニューズは異議を唱えつつも4年に及ぶ訴訟に5億ドルでケリをつけた。
広告収入減に苦しむメディア界にあって、ニューズ・コーポレーションは昨年10月~12月期の売上高を前年同期比10%増の87億ドル(約7900億円)に伸ばしていた。『アバター』効果もあって、映画部門の事業利益は3億2400万ドルと前年同期の約3倍。実質的な営業利益は12億ドルと前年同期に比べて44%増だった。
だが、この嬉しいニュースに水を差したのが、クーポン訴訟だ。和解金5億ドルを差し引いた結果、営業利益は7億ドル強と前年同期にやや劣る結果に。さらに、ソレイル・セキュリティーズのアラン・グールドがブルームバーグに語った試算どおり『アバター』による長期的な営業利益が3億2200万ドルだとすれば、バラシスに支払った5億ドルは既にアバター特需を帳消しにしたことになる。BMOキャピタル・マーケッツのジェフリー・ログズドンの試算は7億ドル以上だが、これも来月には吹き飛ばされるかもしれない。4月12日には、スーパーなどで販売促進事業を手掛けるインシグニア・システムズがバラシス同様、ニューズを相手取った訴訟について和解協議が予定されているからだ。
ジェームズ・キャメロン監督は『アバター』の製作に4年を費やしたというが、同作による利益は4年越しに決着したバラシス訴訟でほぼ水の泡。マードックはアカデミー賞を総なめにしてさらなる収益を見込んでいたかもしれない。だが撮影賞、美術賞、視覚効果賞のみの受賞は「映画館で3Dで観なければ意味なし」という印象を強め、DVDの売れ行きを阻むことも考えられる。マードックには、『アバター』並みのヒット作が数年後と言わず大至急、必要のようだ。
――編集部・小暮聡子
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