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ニューズウィーク日本版編集部 From the Newsroom
ギリシャ危機と古事記の関係
ギリシャの財政危機に関する海外メディアの記事を読んでいると、ギリシャ神話にまつわる表現に出くわすことがある。経済の小難しい話の合間に神話の世界を垣間見るのは、ちょっと楽しい。
「あなたは山に岩を持ち上げようとするシシュフォスになった気分か、それとも牛小屋を掃除しようとするヘラクレスか」。これはドイツのシュピーゲル誌記者がギリシャのパパンドレウ首相に投げ掛けた質問だ。
狡猾なシシュフォス王は地獄に落とされ、岩を山頂まで押し上げるよう命じられるが、あと一息というところで岩が下まで転がり落ち、一からやり直すという苦行を永遠に繰り返す。怪力のヘラクレスはギリシャ神話最大の英雄だ。
パパンドレウはこう答えた。「シシュフォスの気分ではない。それは私の哲学とは違う。だがこれは確かにヘラクレスの仕事(Herculean task)だ」。Herculean taskはヘラクレスの力を必要とするような非常に困難な仕事のこと。この表現は英文記事によく出てくる。
財政赤字がGDPの13%でユーロ圏最悪の国家財政を、対外的な公約どおり12年までに3%以下に減らすのは、確かに並大抵のことではない。先週はギリシャ全土で約300万人が参加する大規模ゼネストが行われるなど、政府の緊縮策に対する国民の反発も強い。
「何よりも私はオデュッセイアを思い起こす。ホメロスの叙事詩では、彼らは困難な旅の間に変身していく......われわれも目的地に着く頃には違う人間になっているだろう」
トロイ戦争後、英雄オデュッセウスは10年間エーゲ海をさまよい、多くの危機を乗り越えて故郷にたどり着く。首相もなかなかうまい例え話をするではないか。
ギリシャ神話は、古事記が描く日本神話と共通点が多いと言われる。例えば、高天原という天上の世界を治める天照大神(あまてらすおおみかみ)の役割は、聖なるオリュンポス山を拠点とする最高神ゼウスとそっくり。そして今のギリシャと日本にも大きな共通点がある。巨額の財政赤字と累積債務だ。
いつか日本がギリシャのような財政危機に陥れば、海外メディアは古事記のエピソードを引き合いに出して時の首相にこんな質問をぶつけるかもしれない。「あなたは大蛇ヤマタノオロチのような恐ろしい財政危機を退治するスサノオノミコトになった気分でいるのか。それとも天照大神がお隠れになって真っ暗な日本経済の『天の岩戸』を開くため、恥も外聞もなく裸踊りをするアメノウズメの心境か」
──編集部・山際博士
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