コラム

若い女性の写真とAIで偽情報拡散──スパイ企業の手口「SNSハニートラップ」とは

2023年04月13日(木)13時40分
自撮りする若い女性

SNSなどにアップした顔写真が意図せず利用されていることも(写真はイメージです) epiximages-shutterstock

<自動化されたボットをターゲットの国にばら撒き、「顧客」の政敵にダメージを与えるような偽情報をSNSなどで繰り返し発信させる。フェイスニュースによる世論の誘導は過去にもあったが、その手法は今日ますます高度化している>


・フェイクニュースを意図的に拡散させるビジネスを行う企業の実態が、潜入取材で明らかになった。

・この企業はスパイ出身者が多く、これまでに世界33カ国の大統領選挙に関わったといわれる。

・その活動には、SNSで集めた写真で架空の人物をでっちあげ、「顧客」に有利な偽情報をAIによって発信することも含まれる。

いまや当たり前になったスマホ、SNS、AIだが、これらを駆使したフェイクニュース拡散をビジネスにする「スパイ企業」の暗躍も確認されている。

「スパイあがり」の起業家

一般的にフェイクニュースと呼ばれるものは、事実でない情報の意図的な発信(偽情報、disinformation)と誤解などに基づく意図しない発信(誤情報、misinformation)の二つに大きく分類される。

このうち偽情報は政治的目的や利益を念頭に置いたもので、誤情報(いわゆるデマもこれに当たる)より悪質といえるが、ギリシャ神話の「トロイの木馬」伝説にあるように、偽情報の発信は有史以来、戦争につきものでもある。

この偽情報をビジネスとして世界中で発信しているとみられる企業が2月、フランスとイスラエルの3人のジャーナリストの潜入取材で明らかになった。記者らが顧客を装ってアプローチしたのはイスラエルに拠点をもつ「チーム・ホルへ」と呼ばれるグループだった。

代表者ホルヘ氏が顧客のふりをした潜入記者らに語ったことの要点をまとめると、

・顧客の依頼を受け、その国のSNSやメディアを通じた偽情報の発信で世論を誘導してきた
・メンバーの多くがイスラエル諜報機関や軍の出身者である
・これまで世界33カ国の大統領選挙に関わり、そのうち27カ所で「成功」した
・ビジネス対象にしていないのはアメリカ、ロシア、イスラエルだけ

「選挙干渉だと8億円以上」

イスラエルはアラブ、イスラーム諸国と長年対立してきた歴史から諜報戦に定評がある。その経験から、近年では軍や諜報機関の出身者によって設立された、サイバーテロ対策を得意とする民間企業も多く、そのなかには日本の企業、大学と連携しているものもある。

その一方で、イスラエルは偽情報輸出国としての顔もあるといえる。

潜入取材の結果が報道されて以来、チーム・ホルヘには各国メディアの取材が殺到したが、そのうち英Guardianに対してホルへ幹部は「選挙干渉の料金は600万ユーロから1500万ユーロ(8億6000万円〜21億6000万円)」と述べた。

そのうえで「法に触れることはしていない」とも強調している。

各国ごとの法令の範囲内なのか、そうでないかの法律論はさておき、チーム・ホルへの「ビジネス」がかなり際どいものであることは確かだ。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国大豆輸入、11月は3カ月連続で米国産ゼロ 南米

ワールド

米英首脳、ウクライナ和平巡り協議 「有志国連合」の

ワールド

米政権、薬価引き下げでさらに9社と合意 17社中1

ビジネス

日経平均は続伸で寄り付く、円安や米国株高で 5万円
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 7
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 8
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story