コラム

地球温暖化は紛争を多発させる──COP27でも問われる気候安全保障

2022年11月11日(金)15時55分

ノルウェーの国内避難民監視センターによると、2021年に発生した国内避難民は世界全体で3800万人にのぼったが、このうち紛争によるものが約1400万人だったのに対して、自然災害によるものは約2400万人を占めた。

なかでも目立つのは、中国(603万人)、フィリピン(568万人)、インド(490万人)などアジア諸国での多さだ。

アジアのリスク

アジアには火種を抱えた国も多く、これが地球温暖化で加速しかねない。

例えば、インドとパキスタンはカシミール地方の領有権をめぐって70年以上にわたって対立し、しばしば軍事衝突を繰り返してきただけでなく、1998年にはそれぞれ核保有を宣言するに至った。

両国は2019年にも国境付近で衝突した。

これらの国で日照りや洪水が増え、生活に困窮する人々が増えるほど、政府は食糧調達に力を入れる。それは農業に欠かせない水の重要性を飛躍的に高める。

パキスタンの農業用水の9割はインダス河からのものだが、インダス河はインド国内も流れていて、その水利をめぐる対立は両国の長年の懸案の一つであり続けてきた。

国際戦略研究所のマツォ博士は、アジア最大の火種の一つであるインド・パキスタン対立は、地球温暖化によって加熱しかねないと警告するが、それは中国を巻き込む対立に発展する懸念さえある。

中国は「一帯一路」構想を通じてパキスタンをテコ入れしている一方、インドとは国境問題を抱えているからだ。

一年ほど前、麻生副総理(当時)は「地球温暖化のおかげで北海道のコメがうまくなった」と発言し、品種改良に取り組んできた農家の努力を無視していると批判されたが、そればかりでなく「だから地球温暖化は悪いことばかりではない」という趣旨は、地球温暖化にまつわる多くの問題を軽視するものでもある。地球温暖化は気温だけでなく国家対立までヒートアップさせているのだから。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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