コラム

TVに映るウクライナ避難民はなぜ白人だけか──戦争の陰にある人種差別

2022年04月19日(火)17時30分
ウクライナ避難民の周辺を警護する警官

ポーランドのメディカでウクライナ避難民の周辺を警護する警官(2022年3月7日) Fabrizio Bensch-REUTERS

<国境や駅では人種差別的な対応が横行。「ロシアの非人道性」を強調するウクライナ政府にとって、自国の人道問題で批判されるのは避けたいところだが>


・ウクライナから逃れているのは白人ばかりでなく、アフリカや中東からの留学生や移民労働者も多く含まれる。

・白人の避難民はほぼノーチェックで隣国に逃れているが、有色人種はウクライナ側でもEU側でも差別的待遇に直面している。

・シリア難民危機をきっかけに欧米でエスカレートした外国人嫌悪は、ウクライナ戦争で浮き彫りになっている。

ウクライナで人道危機に直面しているのは白人ばかりではなく、むしろ有色人種ほど危険にさらされやすい。

「黒人だから国際列車に乗れない」

民間人殺害や化学兵器使用疑惑など、日々報じられるウクライナをめぐる人道危機はエスカレートする兆候をみせている。

しかし、そのなかで危機にさらされているのは「白人のウクライナ人」ばかりではない。むしろ、ウクライナ在住の有色人種や外国人、とりわけアフリカ系やムスリムは、場合によっては白人より高いリスクにさらされている。

例えば、彼らはウクライナを離れることさえ難しい。

ロシア軍による侵攻が始まった直後の2月末から、ウクライナからの脱出を目指す人々が隣国ポーランドなどとの国境に押し寄せたが、白人のウクライナ人(軍務を課された成人男性を除く)が問題なく逃れられた一方、アフリカ系や中東系の多くは引き戻された。

その多くは留学生や移民労働者だが、なかにはウクライナ市民権をもつ者も含まれるとみられる。ともあれ、SNSにはウクライナ兵が白人を優先して国際列車に乗せ、アフリカ系をはじめとする有色人種は力づくで押し戻されるシーンが溢れた。

西アフリカ、ギニアからの留学生はフランス24の取材に対して、ウクライナ西部リビウの駅でウクライナ兵に押し戻されたと証言し、「白人は問題なく通過しているのに、黒人はダメだと兵士は言うんだ」と不満を口にした。こうした証言は無数にある。

「ここはサルのくる場所じゃない」

ウクライナ政府は差別を否定しるが、アフリカ諸国からは批判が噴出している。アフリカ各国が加盟するアフリカ連合(AU)は2月28日、「アフリカ人に対する異なる対応は受け入れられず、国際法にも違反する」という声明を出した。

以前にも取り上げたように、ウクライナ軍の主体ともいえるアゾフ連隊には、白人至上主義的な極右団体としての顔がある。その意味でウクライナ軍兵士の対応は首尾一貫したものとさえいえる。

とはいえ、「ロシアの非人道性」を強調するウクライナ政府にとって、自らが人道問題で批判されるのは避けたいところだろう。そのため、アフリカ系をはじめ有色人種が少しずつウクライナを脱出できるようになったこともまた不思議ではない。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ニデック第三者委「永守氏が一部不正容認」、業績圧力

ビジネス

ユーロ圏消費者物価、2月1.9%に加速 懸念される

ビジネス

中東紛争でインフレ加速も、世界経済への打撃は軽微=

ワールド

〔アングル〕中東情勢が安保3文書改定に影響も、米軍
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医師が語る心優先の健康法
  • 3
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 6
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 7
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 8
    人気の女性インフルエンサー、「直視できない」すご…
  • 9
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 10
    ドバイの空港・ホテルに被害 イランが湾岸諸国に報…
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 3
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 4
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 9
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 10
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story