コラム

日本人がヘイト被害にあうリスク──データにみる他のアジア系との比較

2021年03月23日(火)16時10分

ただし、これはアメリカに限った話ではない。ヨーロッパやオーストラリアなどでもほぼ同じで、例えばイギリスでは昨年、アジア系へのヘイトクライムが21%増加している。

Mutsuji210323_hatecrime.jpg

2016年のトランプ政権の発足に象徴されるように、欧米圏では2010年代半ば頃から、人種や宗教などを理由とするヘイトクライムが増加してきた。当初はムスリム、黒人、ユダヤ人などに対するものが目立ったが、アジア系へのそれが増える大きな転機になったのは、コロナ感染の拡大だった。

コロナをきっかけに、中国人だけでなく、多くの欧米人の目に中国人と区別のつかないアジア系全体が標的になったわけだが、これに拍車をかけたのはトランプ前大統領だった。トランプがコロナを「中国ウィルス」と連呼したことは、少なくとも結果的にアジア系全体に対するヘイトに許可証を与えたといえる。

被害にあったアジア系の内訳

それでは、アメリカで日本人が標的にされるリスクはどの程度大きいのか。

Stop AAPI Hateの調査によると、この1年間に被害を訴えたアジア系のなかでは中国系(42.2%)が最も多く、これに韓国系(14.8%)、ベトナム系(8.5%)、フィリピン系(7.9%)が続き、長期滞在者を含む日系の被害は全体の6.9%だった。この比率をアメリカに暮らすアジア系の人口から考えてみよう。

アメリカ政府が行なった2010年段階の人口調査によると、アメリカのアジア系人口(インド系などを除く)は多い順に

・中国系(401万人)、うち台湾系(21万人)

・フィリピン系(341万人)

・ベトナム系(173万人)

・韓国系(142万人)

・日系(131万人)、うちOkinawan(1万人)

これらと先のヘイトクライムのデータを照らし合わせると、アメリカに居住する日系の人口は中国系の約1/3だが、襲撃などの被害数は中国系の1/6ほどだったことがわかる。つまり、人口に照らして中国系がヘイトクライムに直面する割合は高く、これと比べて日系の割合は低いといえる。

繰り返しになるが、ほとんどの欧米人にとってアジア人の区別はつきにくく、外見だけで中国系を的確に狙い撃ちすることは難しい。

だとすると、なぜ中国系の被害が目立つのか。そこには、中国系はかたまって暮らす傾向が強いので地域社会で目立ちやすいことや、調査を行なっているStop AAPI Hateの有力基盤の一つに中国系アメリカ人団体Chinese for Affirmative Actionがあることから、ヘイトクライムに直面した時に中国系が報告しやすい、といった理由が考えられる。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

貿易分断で世界成長抑制とインフレ高進の恐れ=シュナ

ビジネス

テスラの中国生産車、3月販売は前年比11.5%減 

ビジネス

訂正(発表者側の申し出)-ユニクロ、3月国内既存店

ワールド

ロシア、石油輸出施設の操業制限 ウクライナの攻撃で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story