コラム

G20大阪サミットの焦点・プラごみ規制――「日本主導の議論」の落とし穴

2019年06月28日(金)12時40分

例えば、昨年末、環境省が取りまとめたプラスチック循環資源戦略では以下のような目標が設定されていた。

・2025年までにプラ製容器包装などのデザインを...技術的に分別容易かつリユース、リサイクル可能にすること

・2030年までにワンウェイ(使い捨て)のプラ製品を累積25%排出抑制すること

・2035年までにすへての使用済みプラ製品を熱回収も含め100% 有効利用すること

これらは野心的ともいえるもので、昨年のG7サミットで提出された海洋プラスチック憲章にも劣らない水準だった。ところが、こうした期限や目標の設定はG20関係閣僚会合の合意では跡形もない。

選択肢なき緩やかな合意

こうした合意に至った背景としては、G20各国の間の取り組みや関心の差がしばしば指摘される。

例えば、中国やインドネシアでは、いまだに河川にプラごみが捨てられることが珍しくない。一方、フランスやアメリカのカリフォルニア州などではレジ袋の使用が禁じられており、インドではレジ袋の使用に最大4万円相当の罰金が科される州さえある。

状況の異なる各国の賛成を得ようと思えば、参加のハードルを下げるしかなく、そのために各国の自主的な取り組みが重視され、数値目標の導入は見送られた。それはよく言えば立場の違いを超えた協力を促すものだが、悪く言えばどこに向かうか分からないものともいえる。

プラ製品の製造に関する温度差

もっとも、どこに向かうか分からない合意の成立は、「議論を主導した」日本政府にとっても実は悪いことではない。なぜなら、それによって日本政府は欧米諸国のトレンドと距離を置けるからだ

なぜ、日本政府は欧米と距離を置きたいのか。ここで、日本と欧米諸国の違いを確認しよう。

日本と欧米諸国(そしてほとんどのG20メンバー)はリサイクルやリユースの拡大、再生利用な新素材の開発、ワンウェイの削減、海洋プラごみの科学的調査の促進などで原則的に一致しているが、プラ製品の製造そのものの削減で立場が分かれる。

単純化すれば、欧米諸国ではプラ製品の製造そのものを削減する議論が勢いを増しているが、日本政府はそこに踏み込んでいない(この立場は多くの新興国・開発途上国に近い)。

例えば、欧米諸国ではファスト・ファッションの見直しを求める声が強まっている。短期間で廃棄される衣類が多ければ、それだけ資源消費が多くなるだけでなく、化学繊維の破片が洗濯で押し流されることで、海洋汚染の原因といわれるマイクロプラスチック(微細なプラスチック粒子)を増やすからだ。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

プーチン大統領、トランプ氏にクリスマスメッセージ=

ワールド

ローマ教皇レオ14世、初のクリスマス説教 ガザの惨

ワールド

中国、米が中印関係改善を妨害と非難

ワールド

中国、TikTok売却でバランスの取れた解決策望む
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 5
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 6
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    【銘柄】「Switch 2」好調の任天堂にまさかの暗雲...…
  • 10
    女教師の「密着レギンス」にNG判定...その姿にネット…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 4
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 10
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story