コラム

習近平は中国に何を提案したか──中国の新アフリカ戦略の3つのポイント

2018年09月10日(月)17時30分

「一帯一路」の先のアフリカ

ユーラシア大陸をカバーする経済圏「一帯一路」構想は2014年に発表されたが、2015年に開催された第6回FOCACの基調演説で習氏は一度もこれに触れなかった。

今回、3日の基調演説で習氏は4回にわたって「一帯一路」に言及し、「一帯一路とアフリカ開発の連動」、「アジア・インフラ投資銀行や(「一帯一路」を促進するための)シルクロード基金などのリソースを活用したアフリカ支援」などを強調した。

今回「一帯一路」が強調されたことは、既成事実が追認されたに過ぎないともいえる。

2000年代から中国はアフリカでも大規模なインフラ建設を進めており、鉄道だけに限っても、これまでに2017年1月にはエチオピアとジブチを結ぶ総延長752キロメートルのアディスアベバ‐ジブチ鉄道を開通させた他、ケニア、アンゴラ、ナイジェリアなどでもプロジェクトを完成させている。

これらは基本的に「一帯一路」と無関係に進められたが、もともと「一帯一路」構想にはユーラシア大陸だけでなくアフリカ東岸も含まれていた。そのため、2017年5月に中国で開催された「一帯一路」国際会議には、エチオピアやケニアからも大統領が出席している。

つまり、習氏がFOCACの場で「一帯一路」を強調したことは、既に自明だったアフリカ進出と「一帯一路」の結合を追認したに過ぎないが、東岸だけでなくアフリカ全域を中国主導の経済圏に引き込む戦略を公式に認めるものでもある。最高責任者のゴーサインが出たことは、中国の国営企業などがこれまで以上にアフリカ進出を加速させるとみられる。

貿易関係の深化

これに関連して重要なのが、習氏の基調演説の2つ目のポイント「貿易関係の深化」だ。

基調演説のなかで習氏は「アフリカからの輸入」に関して3回触れた。あまり多くないようにみえるかもしれないが、前回までのそれぞれの基調演説では毎回のように「貿易の促進」が述べられていたものの、「中国がアフリカからの輸入を増やす」という主旨の発言はこれまで一度もなかった。これに比べると、今回の方針は大きな変化である。

中国にとって貿易の活発化は他国との関係を築く基盤で、いまやアフリカにとっても最大の貿易相手だが、多くの国では中国側の出超になりがちである。IMFの統計によると、例えば2017年段階で、アフリカ全体から中国向けの輸出額が約486億ドルだったのに対して、アフリカ全体での中国からの輸入額は約680億ドルにのぼる。中国の大幅な輸出超過に対して、アフリカでは2000年代から既に不満が表面化し始めていた。

これを受けて、中国は2006年から段階的にアフリカの商品の関税を免除し、既に97パーセント以上の輸入品目を無関税輸入の対象にしてきたが、中国の輸出攻勢がすさまじいことに加えて、天然資源を除けばアフリカの主要商品(コーヒー豆、カカオ豆など)に対する中国側の需要が大きくないこともあり、状況は大きく改善してこなかった。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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