コラム

世界に広がる土地買収【後編】──海外の土地を最も多く買い集めている国はどこか

2018年03月16日(金)19時25分

誰が売っているか?

次に表2は海外企業と独占的な土地利用の契約を結んだ主な国を、その面積順に並べたものです。いわば土地を大規模に「輸出」している国のリストですが、ここでは自国企業と外国企業の合弁企業を除きます。

WS000196.jpg

ここからは、ロシアやブラジルといった「大国」に属する国も含まれるものの、「輸出国」の多くがアフリカの貧困国に集中していることが分かります。なかでもコンゴ民主共和国は、世界全体での土地の売買の約8分の1を占めます。その他、南スーダン、モザンビーク、マダガスカル、エチオピアなど、アフリカのなかでも所得水準の低い国に「輸出国」が目立ちます。

その一方で、ウクライナやカンボジアなどは、件数が多いだけでなく、取引された土地が国土面積の4パーセント以上を占める点で特徴的です。カンボジアの場合、中国だけでなく欧米諸国、中東産油国と幅広い取引相手がいますが、これに対してウクライナの場合、ほとんどの取引は欧米諸国なかでもヨーロッパの国です。これは親欧米的なヴィクトル・ユシチェンコ大統領(任2005-2010)のもとでウクライナにヨーロッパ企業の投資が相次いだ結果です。

何のために買うか?

それでは、なぜ土地買収が増えているのでしょうか。図は、その目的別のグラフです。

WS000197.jpg

ランド・マトリックス・データベースでは資源開発やインフラ整備のものがほとんど掲載されておらず、それらを除くと農業と林業が圧倒的に大きな比重を占めていることが分かります。

このうち農業に関しては、将来的な食糧不足への懸念と、2000年代の食糧価格高騰の影響で、安定した食糧調達を求める動きが広がったことが、土地買収の大きな背景になっています。先述のシンガポールなど、富裕でも耕作可能な土地がほとんどない国には、特にその傾向が強いといえます。

一方、注目すべきは、地球温暖化対策との関係です。バイオ燃料の原料となる作物栽培は、土地買収全体の15パーセントを占めます。サトウキビやトウモロコシから製造されるバイオ燃料は、植物の生育過程の光合成で二酸化炭素を吸収するため、石油など化石燃料と比べて環境への負荷が小さいと考えられています。2015年に採択されたパリ協定で各国に温室効果ガス排出規制が義務付けられるなか、バイオ燃料に改めて注目が集まっていることも、土地買収を促す一因となっているのです。

最後に、林業も無視できません。先進国をはじめ豊かな国では自国の森林を保護する動きが加速していますが、その一方で木材需要は減っていません。最大の「輸出国」であるコンゴ民主共和国では、広大な国土を覆うジャングル地帯での木材調達が「輸入国」による土地買収の大きな目的になっています。しかし、それは結果的に、コンゴをはじめとするアフリカ各地ではげ山が増加する一因となっています。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米、対スイス関税15%に引き下げ 2000億ドルの

ワールド

トランプ氏、司法省にエプスタイン氏と民主党関係者の

ワールド

ロ、25年に滑空弾12万発製造か 射程400キロ延

ビジネス

米ウォルマートCEOにファーナー氏、マクミロン氏は
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 5
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 9
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 10
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story