静かに広がる「右翼テロ」の脅威―イスラーム過激派と何が違うか
ところで、米国で「ヘイトクライム(憎悪に基づく犯罪)」と呼ばれる、主に白人至上主義者による黒人やムスリム、さらにその擁護者である白人をも対象とする事件は、「米国は白人の国であるべき」という政治信条によって立つものです。人種や宗教の違いが「政治的な意味」をもつことは、殺傷などをともなう重大なヘイトクライムが単純な犯罪ではなく、「政敵へのテロリズム」であることを意味します。
2月14日にフロリダ州の高校で発生した、17人が死亡する銃乱射事件で逮捕されたニコラス・クルーズ容疑者は、黒人やムスリムへの差別的な発言を繰り返し、白人至上主義者と結びつきがあったと報じられています。「米国が白人の国であるべき」と捉える者が、多くの人種・民族や宗教・宗派がともにある学校を、その政治的信条に反するものの象徴として標的にしたとするなら、これはテロリズムと呼ばざるを得なくなります。
拡散する白人右翼テロ
米国の場合、白人右翼によるテロは南北戦争の時代にまでさかのぼります。1865年、エイブラハム・リンカーン大統領(当時)が奴隷解放に反対する者によって暗殺されたことは、その象徴です。
ただし、2001年からの対テロ戦争、2008年のリーマンショック、2015年からのシリア難民危機などにより、米国をはじめ欧米諸国ではゼノフォビア(外国人嫌い)と呼ばれる風潮が広がったことで、殺人など重大な結果に至らないものを含めて、ヘイトクライムが増加傾向にあります。例えば英国では、同国内務省によると2017年に報告されたヘイトクライムが80,393件で、これは前年度比で29パーセントの増加です。
白人右翼テロの標的は、黒人やムスリムだけでなく、多文化の共存を認める白人や団体にも向かいます。2011年7月にノルウェーで、移民受け入れを進めていた労働党の青年部の関係者69人を含む77人が白人至上主義者に殺害されたテロ事件は、その象徴です。また、EUからの離脱の賛否を問う国民投票の直前の2016年6月、EU残留を説いていた英国労働党のジョー・コックス議員が極右活動家に殺害された事件も、これに含まれます。
その根底には、「白人キリスト教徒、あるいはその国の多数派であることの特権」が浸食されることへの危機感があるといえるでしょう。
「物言わぬ」白人右翼テロ
欧米諸国で広がる白人右翼テロは、イスラーム過激派や左翼のテロと比べて、何が違うのでしょうか。
ドイツでは2018年1月、極右勢力「国家社会主義地下組織(NSU)」のメンバー、ベアーテ・チェーペ被告の裁判が最終段階に入りました。同被告は2011年、トルコ系移民を少なくとも10人殺害したとして逮捕されていました。この事件は「ネオナチの台頭」として欧米諸国で広く関心を集め、この事件をモデルにした映画『In the Fade』は2018年1月、ハリウッドで選出されるゴールデングローブ賞の外国語映画賞を受賞しました。
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