「持続可能な社会実現」の試練に直面する欧州、日本は距離を縮められるか
相対的に日本経済は安定成長が続く余地がある
エネルギー不足に直面する欧州ほどではないが米国も高インフレに見舞われたため、2023年の経済環境は厳しい。一方、IMFの最新の見通しでは2023年の日本経済の見通しは+1.6%で、停滞が見込まれる米欧よりも高い成長率が予想されている。このIMFの見通しはやや楽観的かもしれないが、米欧経済が停滞する中で、日本の経済成長だけが巡航速度程度を保つことができる要因がある。
一つは米欧のように高インフレの問題に直面していない日本では、金融財政政策が経済成長を支えるためである。1ドル150円近くまで大きく円安が続いており、「日本売り」「日本停滞の象徴」などとメディアでは言われているが、日本は高インフレに直面していないので、円安が日本の経済成長を刺激する。
もう一つは、コロナからの経済正常化で、10月に外国人の渡航制限が大きく緩和された効果が期待できる。これまで外国人のインバウンド需要は激減していたが、インバウンド消費はコロナ前の2019年は約4.8兆円の規模であり、これはGDPの約1%に相当する。中国からの訪日客が依然として制限されているので、どの程度訪日客が増えるかは、現状ではかなり流動的である。ただ円安の効果もあり、仮に2023年にインバウンド消費が2~3兆円規模に回復すれば、GDP成長率を約0.5%程度押し上げる。
2023年にかけて相対的に日本経済は安定成長が続く余地がある。このため、欧州に比べて遅れているとされる脱炭素などSDGs実現にむけた取り組みについて、日本は多少なりと距離を縮める機会になりうるだろう。
岸田政権において、脱炭素にむけた取り組みが進むことが期待されるが現状はどうか。岸田政権は5月に気候変動問題に関して、「民間投資の呼び水にする」にするための、「GX(グリーン・トランスフォーメーション)経済移行債」を20兆円規模で発行することを検討すると表明した。ただ、日本のエネルギー政策において、「原発再稼働」が目先の重要課題になったことが影響してか、この計画に目立った進展はみられない。
また、ガソリンなどエネルギー価格高騰に対しては、補助金支給による価格抑制政策が徹底されている。これは家計の負担を減らす効果はあるが、価格上昇を通じてエネルギー消費を抑制する機能を喪失させる側面がある。これらの対応をみると、日本において、2022年に脱炭素推進政策が進んでいるとは言い難いだろう。
緊縮的な財政政策が行われる懸念
更に懸念されることがある。脱炭素政策とは別の文脈で、日本では早期の増税が提唱されるなどの報道が散見される。これは、岸田政権が「経済の再生が最優先課題」とした10月3日の所信表明演説と相反する動きではないか。経済安定化が不十分のまま、緊縮的な財政政策が行われれば、先に紹介した、IMFなどが予想する2023年の経済成長は期待できないだろう。
高インフレに至っていない日本にとって、持続可能な社会の大前提である経済成長の実現はより重要だが、これが中途半端にとどまるということである。そして、経済安定が損なわれれば、企業による脱炭素技術開発が遅れる恐れが高まり、また国民にとっても目先の生活が重要になるので、脱炭素などSDGsへの取り組みも進みづらくなる。そうなると、SDGs推進において、試練に直面する欧州との差を縮める機会を日本が活かすことは、より難しくなるだろう。
(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません)
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