ウクライナ侵攻が進む中、悪い円安論の盛り上がりに対する違和感
メディアなどが醸成する円安批判の世論が、岸田政権の今後の経済政策運営を左右するリスク...... Franck Robichon / REUTERS
<ウクライナ危機の中で円安が進んでいるためか、「悪い円安」が進んでいるなどとメディアで報じられているが......>
ウクライナ危機によって金融市場にショックが走り、2月後半から世界の株価や金利が日々大きく変動して金融市場は混乱した。3月21日時点で、米欧株市場は、ウクライナ侵攻が始まった時点(2月24日)の水準を超えてリバウンド、ロシア・ウクライナの地域間の紛争が長引いても世界経済全体への影響は限定的との見方が広がりつつある。
ただ、ロシア関連資産損失への懸念がくすぶり、米国の銀行間貸出金利が高止まるなど、限定的ながらも資金の目詰まりがみられ、また米欧社債市場における信用スプレッドも広がっている。ロシア・ウクライナの紛争が世界経済の成長を阻害するという負の影響が、最近の株式市場ではやや楽観視されている可能性がある。
また、FRB(連邦準備理事会)は、3月16日のFOMC(連邦公開市場委員会)において、2018年以来の利上げ政策を開始、22年末まで政策金利を2%前後まで政策金利を大幅に引き上げるメンバーの意向が示された。更に50bpsの利上げを行うタカ派メンバーの主張にパウエル議長の見解が傾いていることが、3月21日の議長のスピーチで判明した。FRBの大幅な利上げが米経済に及ぼす影響については別の機会に述べたいが、ウクライナ情勢がもたらす影響への見方を含めて、金融市場においては様々な思惑が交錯している。
「悪い円安」との見方は一面的だ
こうした中で、2022年初には1ドル115円付近で膠着していたドル円は、2月にウクライナ情勢で金融市場が混乱する中でレンジ相場が続いていたが、3月22日には120円台まで一気に円安ドル高が進んだ。昨年から、通貨円が歴史的水準に下がっているとの報道が増え、また危機の中で円安が進んでいるためか、「悪い円安」が進んでいるなどとメディアで報じられている。
ただ、過去を振り返れば、2000年代以降、日本においては経済混乱期(リーマンショック、東日本大震災など)には、金融市場で円高が進みデフレ圧力が高まった。「リスクオフ=円高」という為替市場の反応が、コロナがもたらした混乱が起きた2020年から少なくなっており、日本経済にとっては望ましいと筆者は認識している。まずこの意味で、「悪い円安」との見方は一面的だろう。
金融市場での、リスクオフ=円高という、かつてみられた為替市場の反応の原因は、以下のような日米の政策対応の差がもたらしたと筆者はみている。経済停滞や危機時になればFRBが金融緩和を行うなど経済を下支えする対応が行われるので米ドルは安定。一方、2012年までの日本銀行の金融緩和など経済対策が徹底されずにデフレと経済停滞を招き、デフレと円高の悪循環を招くので、円高予想が強まる。
また、経済の危機時に円高になるのは「本邦の海外資産の売却が進むため」とされたが、この因果関係が実は強くないことが、2020年のコロナ禍、22年のウクライナ危機で明らかになったと言えるのではないか。為替市場の動きをもたらす確かな要因は、日本と米国の金融財政政策に求められるだろう。
FRBは、インフレ鎮静化を最重視する姿勢を強めたが
2013年に日本銀行の緩和策が徹底されてから、FRBと同等あるいはより強力な金融緩和が日本で行われるように政策姿勢が一変、これ以降、大幅な円高に直面する時期は短くなった。2020年のコロナ禍後も、日銀の金融緩和姿勢が徹底しており、安倍政権までは米国同様に財政政策を打ち出したので、日本でデフレ期待が強まらず、2010年代初頭までに起きていた円高が防止されていたと言える。
今回のウクライナ危機によって、世界的な株安で金融市場は混乱した中で、利上げを開始したFRBは、インフレ鎮静化を最重視する姿勢を強めた。対照的に、インフレ率が高まっていない中で日本銀行が金融緩和を継続するのだから、ドル高円安になりやすい。こうした中で起こるドル高円安は、為替レートが日米双方の経済活動の調整弁としての役割を果たすのだから、日米双方にとって望ましいだろう。
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