コラム

「アメリカンレスキュープラン」成立、財政政策の判断基準が大きく変わりつつある

2021年03月25日(木)17時45分

バイデン政権が打ち出したアメリカンレスキュープランが成立した...... REUTERS/Tom Brenner

<総額約1.9兆ドル(GDP比9%)の経済対策「アメリカンレスキュープラン」成立。大規模な財政政策に対する考え方が変わってきている......>

前回(2月25日)コラムでは、米国においてバイデン政権が打ち出すアメリカンレスキュープランの多くが実現する可能性を述べた。その後、上下院で多数派を形成する民主党の賛成で可決して、3月11日のバイデン大統領による署名で成立した。

大規模な財政政策発動の便益と弊害

アメリカンレスキュープランは、総額約1.9兆ドル(GDP比9%)の経済対策で、1年前のコロナ危機直後にトランプ政権が繰り出した対応と同規模の財政政策が発動された。内訳は、消費刺激が期待される現金給付(約4000億ドル)、失業給付拡大(約2000億ドル)、教育支援・児童手当控除(約3000億ドル)など、中低所得者を対象とした所得支援が約9000億ドルと総額の約半分を占める。

更に、連邦政府から地方政府への支援金として3500億ドルが計上されている。財政収支悪化に直面する大都市の多くは民主党の地盤であるという政治的な理由から、共和党がこれに反対してきた経緯がある。バイデン政権になって、地方政府による「幅広く」かつ「きめが細かい」新型コロナ対応の支援策が可能になった。トランプ政権が注力した現金給付、失業給付上乗せを通じた家計への所得支援が2021年も継続された上で、地方政府経由でのコロナ対応策が拡充されたわけだ。

この政策の多くは新型コロナ危機への対応であり、一度限りの政策発動と位置づけられる。一方で、米経済が回復軌道にある中で、危機発生直後と同様の大規模な財政政策が発動されることについては、様々な見方があるだろう。所得補償を中心とした時限的な財政政策を追加したことは、新型コロナによる大幅な落ち込みから米国経済の正常化を後押しする。このため、投資家サイドに立つ筆者の視点では、弊害よりも便益の方がかなり大きいと考える。

米国の財政政策は「行き過ぎ」か?

2020年にマイナス3.5%と大きく落ち込んだ経済成長率を取り戻し、新型コロナ禍前の経済成長経路に戻すためには、2021年に6%以上の経済成長が必要になる。大規模な財政政策そしてワクチン接種が進んでいる状況を踏まえると、21年の米国の経済成長率は実際に6%程度に加速すると筆者は予想している。

こうした認識が昨年末から金融市場で広がり、まず2020年の大統領選挙直後から、成長加速を一足早く折り込んだ米国の株式市場では株高が続いている。2021年に入ってからは1%前後で推移していた長期金利(10年国債)が1.5%を超えて上昇、為替市場では1ドル=103円台から109円までドル高円安が進んだ。2年間に及ぶ大規模な財政政策によって米国が世界経済全体を牽引する、という2021年の世界経済、金融市場の姿はほぼコンセンサスになりつつある。

米国で実現している大規模な財政政策発動によって、連邦政府の財政赤字は既にGDP対比16%と戦後最大規模に拡大している。債務残高はCBO(議会予算局)によれば、2021年にGDP対比130%まで一気に増える。これらの指標を重視する論者から見れば、米国による財政政策は「行き過ぎ」であり、弊害が大きいという主張につながるだろう。

ケネス・ロゴフ「国家は破綻する」の指摘

10年程前には経済学の世界において、大物経済学者であるケネス・ロゴフ(ハーバード大学教授)らが執筆した「国家は破綻する」が大きな話題になった。当時は欧州において債務危機が深刻化するなど、先進国での財政破綻が真剣に懸念されていた。そして、債務残高GDP比率が高い国が債務不履行に至る可能性が高い、が同書の主要なメッセージの一つだった。

プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。著書「日本の正しい未来」講談社α新書、など多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ECB総裁、欧州経済統合「緊急性高まる」 早期行動

ビジネス

英小売売上高、10月は前月比-0.7% 予算案発表

ワールド

中国、日本人の短期ビザ免除を再開 林官房長官「交流

ビジネス

独GDP改定値、第3四半期は前期比+0.1% 速報
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story