女相撲×アナキスト 『菊とギロチン』に見る瀬々敬久の反骨
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ILLUSTRATION BY NATSUCO MOON FOR NEWSWEEK JAPAN
<時代と国家と良識にあらがい、自由を希求する──瀬々の志を体現する女たちとテロリスト集団の計画は失敗ばかりだが...>
欠点だらけだが嫌いになれない友人がいる。あるいは欠点は目につかないのに魅力を感じることができない人もいる。映画もそういうものかもしれないと時おり思う。いや映画だけではなく、そもそも表現とはそういうものなのだろう。
この映画は発表直後には、「女相撲とアナキスト」というサブタイトルが付いていたらしい。正式なタイトルは『菊とギロチン』。どちらにせよ意味が分からない。「菊」は何か。僕は「菊の御紋」を意味しているのだろうと何となく思い込んでいたが、この原稿のために調べたら、実在したテロリズム(アナキズム)集団「ギロチン社」の中心メンバーで映画の主役でもある中濱鐵(なかはまてつ)が残した短歌「菊一輪 ギロチンの上に微笑(ほほえ)みし 黒き香りを遥かに偲(しの)ぶ」が由来らしい。いやそれとも、女相撲の新人力士でもう1人の主役「花菊ともよ」の名前なのか。いややっぱり菊の御紋なのか。......分かんないよ。
これが瀬々敬久の一つの流儀だ。過剰な説明はしない。平気で観客を置き去りにする。言い換えれば、菊の解釈などどうでもいいと思っているのかもしれない。
瀬々にはたくさんの顔がある。そもそもはピンク映画の巨匠だった。ドキュメンタリー作品も数多い。実際に起きた事件を題材にする社会派でもある。さらに大ヒットしたメジャー映画『感染列島』や『64─ロクヨン─』なども監督している。
要するに不器用な職人、いや器用なのか。よく分からない。そういえば風貌も宮大工の親方みたいだ。でも繊細。そしていまだに女性を土俵に上げない大相撲に対するアンチとして屹立(きつりつ)する「女相撲」と、テロリスト集団である「ギロチン社」を主軸に置いた映画を監督することが示すように、徹底して反骨だ。
舞台は関東大震災直後の日本。全国を旅しながら興行していた「女相撲」一座の女たちが、「ギロチン社」の男たちと出会う。ここはもちろんフィクション。彼らの共通項は、時代と国家と良識へのあらがい。それは自由への希求。でも国家は放埓(ほうらつ)な自由を許さない。テロを黙認するはずもない。男たちは要人暗殺を計画する。しかし失敗ばかり。女たちは連れ戻しに来た家族に抵抗できない。結局は勝てない。でも彼らは必死にあらがう。浜辺で踊り狂う。新しい世界を夢見ながら。以下は公式サイトに掲載された瀬々のコメントだ。
「十代の頃、自主映画や当時登場したばかりの若い監督たちが世界を新しく変えていくのだと思い、映画を志した。僕自身が『ギロチン社』的だった。数十年経ち、そうはならなかった現実を前にもう一度『自主自立』『自由』という、お題目を立てて映画を作りたかった。今作らなければ、そう思った。(後略)」
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