與那覇 潤
歴史もたまには役に立つ

リベラルは復権のために、民主主義を侮蔑する「幼稚な支持者」と縁を切ろう

2022年07月06日(水)08時03分
街頭演説

Mihajlo Maricic-iStock.

<裁判所の判決であれ、選挙の投票結果であれ、自分が期待していた結果と異なると文句だけ言って対話を放棄してきた「リベラル人士」の浅ましい姿に、多くの人が辟易していることに気づくべき>

民主主義とは、投票所に足を運んで立法府の議員を選ぶことなのだろうか?

「あたりまえじゃないか」と思われるかもしれない。しかし近日、どうもそうは考えない人も多いらしいと、感じる事件があった。

ひとつは2022年6月に大阪地裁が下した、同性婚を認めていない日本の現行法は「違憲ではない」とする判決だ。21年3月の札幌地裁は逆に「現行法は部分的に違憲だ」とする判決を出していたため、期待を裏切られたとして声高に大阪地裁への「抗議」を表明した人は、SNSをざっと眺めるだけでもかなりの数に上る。

おかしな話である。大阪地裁の判決文は、婚姻を異性間に限る現行の法制が「違憲ではない」と言っているだけで、日本でも同性婚が可能となるよう法を改正することが「認められない」とは述べていない。

むしろ正反対に、判決の要旨には、こう記されている(カッコ内は引用者)。


同性愛者にも異性愛者と同様の婚姻又はこれに準ずる制度を認めることは、憲法の普遍的価値である個人の尊厳や多様な人々の共生の理念に沿うものでこそあれ、これに抵触するものでないことからすると、憲法24条1項〔両性の平等〕が異性間の婚姻のみを定めているからといって、同性間の婚姻又はこれに準ずる制度を構築することを禁止する趣旨であるとまで解すべきではない。

日本国憲法に婚姻の条件が「両性の合意」として記されている以上、異性婚のみを前提に整備されてきた現行の制度は「違憲ではない」が、一方で憲法が掲げる理念に照らして、今後は同性婚を可能にしてゆくこともまた「憲法違反にはならない」とするのが、大阪地裁の判決である。

つまり同性婚の法制化もまた「憲法違反ではない」とする判例が出たのだから、今後は同性婚の実現に積極的な政治家を選挙で当選させるよう、力を尽くすのが民主主義であろう。同性婚の支持者にとって、大阪地裁の判決は自らの運動に活用してゆける武器でこそあれ、貶すべきものではないはずだ。

影響が及ぶ範囲がより甚大で、かつ連邦制が絡むために問題が複雑だが、同じ2022年の6月にアメリカを揺るがした連邦最高裁の「中絶」をめぐる判決にも似た構図がある。誤解している人も見かけるが、同判決は「中絶を禁止せよ」と求めるものではない。

1973年の判例を覆した今回の判決は、合衆国憲法が一律に「中絶する権利を女性に認めている」とは解釈できない、とするものだ。いわば、(民主的な手続きで)中絶を禁止しても「違憲にはならない」と述べるに留まり、今後どの程度中絶を認めるかは、州ごとの法制に委ねられる。

もちろん南部を中心とする宗教的な保守色の強い地域では、同判決を受けて「中絶禁止」を含めた法改正が進む懸念が高い(すでに施行された州もある)。しかしそうした立法を阻止ないし改定するよう、選挙を通じて戦うこともまた、当然ながら禁じられていない。

日米両国は、いちおうは民主主義の先進国のはずだ。しかしともに、裁判所の判断を受けて「よしわかった。それなら民主主義(議員の選挙)で戦おう!」となる以上に、判決の「不当性」を路上やSNSで叫ぶ人の方がメディアで目立つのは、なぜだろうか。

プロフィール
プロフィール

與那覇 潤

(よなは・じゅん)
評論家。1979年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科で博士号取得後、2007~17年まで地方公立大学准教授。当時の専門は日本近現代史で、講義録に『中国化する日本』『日本人はなぜ存在するか』。病気と離職の体験を基にした著書に『知性は死なない』『心を病んだらいけないの?』(共著、第19回小林秀雄賞)。直近の同時代史を描く2021年刊の『平成史』を最後に、歴史学者の呼称を放棄した。2022年5月14日に最新刊『過剰可視化社会』(PHP新書)を上梓。

今、あなたにオススメ
話題のニュースを毎朝お届けするメールマガジン、ご登録はこちらから。
注目のキーワード
注目のキーワード
トランプ
投資
本誌紹介
特集:引きこもるアメリカ

本誌 最新号

特集:引きこもるアメリカ

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

2025年4月 8日号  4/ 1発売

MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中

人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    アメリカで「最古の銃」発見...いったい誰が何のため…
  • 10
    トランプ政権でついに「内ゲバ」が始まる...シグナル…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
もっと見る
ABJ

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標(登録番号 第6091713号)です。