撤退したマクドナルドの後、ロシア製ハンバーガーで繁盛する後継店(モスクワ、6月12日の開店日) Evgenia Novozhenina-REUTERS
<ルーブル下落に債務不履行、モノ不足や失業で国民の不満が爆発、反プーチン・反戦デモが巻き起こるシナリオはどこへ行ったのか>
ウクライナ東部での血みどろの攻防戦をよそに、ロシアの首都モスクワでは今も侵攻前とほとんど変わらない日常が続いている。マクドナルドなど西側ブランドのロゴマークは通りから姿を消したが、公園やカフェはいつもどおりの賑わいを見せている。
「消費行動にはこれと言った変化は見られない」と、モスクワのトベルスコイ地区のヤーコフ・ヤクボビッチ区長は本誌に話した。「多くの商品やサービスの価格が上がったが、人々は特に困っていないようだ」
初夏に入り、市内の道路では恒例の季節的な自転車専用レーンの設置と歩道の拡幅整備が進んでいる。
「わが区では最近、公共サービス向上のための予算を8%増額できた」と、ヤクボビッチは胸を張る。
実際、首都を見て回った印象では、この国が戦争中とは嘘のようだ。
例年と変わらず夏の訪れを謳歌するモスクワっ子たち──2月24日のウクライナ侵攻を受けて、西側諸国がロシアに過去最大級の経済制裁を科したときには、誰も予想しなかった光景だ。
制裁の影響で西側からの製品の輸入がほぼ完全にストップすると、ロシアの小売業者は代わりの仕入先を探し始めた。
ハンバーガーなら類似品を国内で作れても、より高度な技術が必要とされる製品では、国産品はおろか輸入品でも、これまでと同レベルの品質はまず望めない。それでも中国などからの輸入が増えたおかげで、物資不足は解消されつつある。
対中貿易を専門とする貿易運輸会社の経営者が、アレクサンドルという仮名で本誌の取材に応じ、侵攻開始直後には身近な製品が深刻な品不足に陥ったと話してくれた。
「3月には紙が手に入らなくなった。わが社は注文を受けて、350台の大型トラックで(中国製の)紙製品を運んだ。今は紙不足は解消した」
紙に限らず、多くの消費財の品薄状態は解消したが、品質の低下は否めないと、アレクサンドルは言う。
「例えば靴にしても、より安い製品の注文が増えた。以前ならそういう靴はもっぱら地方向けだったが、今はモスクワにも運んでいる。首都でさえ、安物を求める人が増えたのだ」