ロシア経済が制裁する側の西側よりよほど好調そうなわけ
In Moscow, Shoppers Feel Far Less Pain than Americans from Ukraine War
ロシアのウクライナ侵攻は世界経済の足を引っ張ったが、ウクライナ(今年のGDP成長率は前年比45.1%のマイナスになると予想されている)を除けば、この戦争で最大の経済的な打撃を受けたのはロシアだ。
それでも、「西側の制裁で国家経済が破綻する」という当初の予想を裏切って、ロシア経済は命脈をつなぎ、国民は今の暮らしにまずまず満足している。世論の反発が強まり、反体制派が勢いを増すどころか、生活水準は多少下がったにもかかわらず、首都の通りではデモも行われていない。
この現実を見事に反映しているのがルーブル相場だ。侵攻開始前日の2月23日には1ドル=78.6ルーブル。その後の2週間余りでルーブル安が急激に進み、3月上旬にかけて1ドル=150ルーブル前後まで下落した。だが、そこから上昇に転じ、今や1ドル=60ルーブルを下回る、2018年3月以来の最高値を付けている。
通貨価値だけでは、経済全体の健全性は診断できない。しかしロシア中央銀行がわずか3カ月前には時間の問題と見られていたデフォルト(債務不履行)を回避し、ルーブルが急回復したことが、国民の安心感につながったのは確かだ。
大損したのは高所得層
皮肉な話だが、今のルーブル高は、少なくとも部分的には西側の制裁の「効果」によるものだ。侵攻開始当初、ロシア中銀は資本逃避を防ぐため、現金の引き出しに上限を設け、ルーブル建て預金の金利を25%引き上げた。その後に西側の企業がロシアから一斉に撤退したため、ロシアの為替市場ではドル需要が急減し、ルーブルの対ドル相場が上昇したのだ。
モスクワ国際関係大学のニコライ・トポルニン教授はその辺りの事情をこう説明する。
「独シーメンスがロシア向けの鉄道車両の輸出を停止し、外国の自動車各社がロシア工場を閉鎖するといった動きが相次ぎ、ロシアはエアバスやボーイングの旅客機の部品を入手できず、整備もままならなくなった。だが西側からの輸入が減ったおかげで、貿易収支は改善し(ルーブルも回復した)。ロシア人はルーブル相場を非常に気にする。ルーブルが強ければ、自信を持つのだ」
トポロニンによれば、意外にも制裁で最も打撃を受けているのは庶民ではなく、高所得層だ。
その1人、モスクワ在住の技術者がマックスという仮名で取材に応じてくれた。彼は政治的には中立の立場で、最近までロシアの名だたる民間企業に勤め、高い給与を得ていた。今は外国企業に雇ってもらおうと就職活動を行なっている。彼のような人たちは失業してもすぐに生活に困るわけではない。げんにマックスは市内のヘルスクラブのプールサイドで長椅子に寝そべりながら、メッセンジャー・アプリで本誌の質問に答えた。