イギリスでは虫歯の治療に12ヶ月待ちを記録する異常事態となっている...... REUTERS/Phil Noble (BRITAIN)
<すぐにでも手を打ちたい、口内のつらいトラブル。しかしイギリスの場合、1年近い辛抱が求められる事態になっている>
パンデミックにより、イギリスの歯科事情は著しく悪化した。英国民保健サービス(NHS)の待機者リストは肥大化し、虫歯の治療に12ヶ月待ちを記録する異常事態となっている。
激しい痛みを抱えたまま1年も待てないとばかりに、自ら対処を試みる人が相次ぐようになった。抜歯や麻酔などの専門知識なくして応急処置を試みる人々が現れ、「DIY治療」の流行だとして問題になっている。
英ガーディアン紙は5月30日、『瞬間接着剤と自力の抜歯:イギリスの破れかぶれの「DIY歯科治療」の耐え難い現実』と題する記事を掲載した。「最近はホラーストーリーが豊富にある」と記事は述べ、自らの手で5本の歯を引き抜いた女性の事例などを取り上げている。
こうした事例は、経済的に恵まれない人々のあいだでとくに多い。同記事によると、ケンブリッジにほど近いサフォーク州の男性は痛みに耐えかね、市販の瞬間接着剤と金属ヤスリで自己流の治療を決行した。
イギリスでは光熱費が高騰するなど、生活費の上昇が深刻な問題となっている。そこへ歯の治療費が追い討ちをかけ、正規の治療を諦める人々が続出していることで社会問題となった。
ウェールズ地方で美容師として働くケイティ=ルイーズ・ホーウェルズ氏は、親知らずの治療を希望した際、2年待ちだと告げられた。待機のあいだに、虫歯菌は彼女の耳まで侵しはじめた。彼女は英BBCに対し、「顔の片側全体が痛み、口を開けて食べたり飲んだりすることができません。あごが動かず、耳に痛みが出ており、平衡感覚にも影響が出ています」と訴える。
また、同じウェールズに住むメラニー・ファッジ=ホートン氏は、家族の暖房費を優先して自分の歯を失った。彼女は夫のマルク氏とともに、精神疾患を患う2人の子供を養っており、自費診療を受けられるほど生活費にゆとりがない。歯の治療に1000ポンド(約16万円)がかかるとわかると、代わりに50ポンド(約8000円)の抜歯を選択した。「家を暖めるのか自分の歯を守るのか、どちらかの選択が必要でした」と彼女は振り返る。
虫歯はごく初期段階のものを除き、基本的に自然治癒は望めない。治療を待機しているあいだにも症状は悪化し、さらに本格的な治療が必要となる悪循環だ。そこでDIYに手を出す人々が多く出ているが、これもまた症状の悪化に拍車をかけかねない。
イギリスでは治療キットをネット通販で入手できる。詰め物の応急処置に使う充填剤や、入れ歯の補修用の接着剤、歯垢除去の金属フック(探針)などが販売されている。歯科用品製造の英ブーツ社によると、ロックダウン中、イギリスの家庭の25%がこうした治療キットに頼ったという。