ビクトリア州は昨年、厳しいロックダウンを経験し、州都メルボルンは今年2月にも5日間実施した。(メルボルンの自宅待機を呼び掛ける看板を見つめる少女像) SANDRA SANDERSーREUTERS
<厳しい国境閉鎖で多数の帰国困難者が発生。感染は防げた一方、「多文化主義の移民大国」の名が泣く状況に>
今月発表されたオーストラリアの連邦予算案に、国外にいる多数のオーストラリア人(私もその1人だ)と国内でその帰りを待つ家族を絶望のどん底に落とす記載があった。
国境閉鎖が解除され、帰国できるようになるのは2022年半ばだ、というのである。
オーストラリアは昨年3月、WHO(世界保健機関)が新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)を宣言するや即座に国境を閉鎖。以後、おそらくは北朝鮮を除いて世界一厳しい「鎖国政策」を取ってきた。
パンデミックが始まると多くの国々が渡航制限に踏み切ったが、外国滞在中の自国民の帰国まで事実上制限したのは民主主義国家ではオーストラリアくらいのものだ。
オーストラリア外務省によると、外国で「足止め中」、つまり帰国を希望しているのに帰れないオーストラリア人は最大4万人に上る。
理由の1つはお金だ。連邦政府は国境を閉鎖するとすぐ帰国者の隔離費用(宿泊費など)は帰還先の州と特別地域が責任を持つことにすると決めた。そして多くの州や特別地域は高い費用を帰国者に負担させている。しかも、帰国者の受け入れ人数も行政により著しく制限されている。
帰りたくても、そもそもフライトの確保が難しい。オーストラリアを代表するカンタス航空は1990年代に民営化された。今や利益率の低い長距離便を運航している航空会社は少なく、欠航も多い。しかもエコノミークラスよりビジネスクラスや貨物が優先され、コロナ禍で航空券は3倍以上値上がりしている。
だがラックラン・マードックやニコール・キッドマンのような大金持ちのオーストラリア人はプライベートジェットで帰国し、私有地で自主隔離する許可を与えられ、マスクなしの休暇を満喫できる。
早々と国境を閉鎖し、国内でも厳しいロックダウン(都市封鎖)を実施したおかげで、オーストラリアの新型コロナの死者は累計1000人足らず。迅速に決断を下したスコット・モリソン首相の「お手柄」は認めざるを得ない。
だが鎖国とも言うべき政策はどうなのか。しかもその状況下でもマードックやキッドマンだけでなく、ナタリー・ポートマンやザック・エフロンなどハリウッドのスターたちは難なく入国できる。そしてコロナフリーのロケ地で映画の撮影をしたり、観光客のいないビーチでサーフィンを楽しんだりと羨ましい限りだ。